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北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「これってヤラセじゃないですか?」望月拓海著

公開日: 更新日:

 元ヤン大城了は20歳、元気いっぱいの熱血漢だ。友人の乙木花史18歳は、超あがり症で初対面の人とは会話ができないものの、企画作りの天才で、この2人がコンビを組んで「日本一稼ぐ放送作家」を目指す青春お仕事小説である。

 前作の「これでは数字が取れません」は、伝説の放送作家に弟子入りして、下積みの苦労を味わう入門編だったが、シリーズ第2作の本書は、独立した彼らに音楽番組から声がかかるところから始まっていく。前作を未読でも全然大丈夫なので、安心して手に取られたい。これが面白ければ前作に遡ればいいのだ。

 連作長編ふうの構成で、5つの中編が数珠つながりのように絡み合っていくが、第2話「歌姫はつらいよ」が強い印象を残す。天才歌姫の密着VTRをつくることになるものの、この歌姫がわがままで、了と花史は振りまわされる。そこをどう打開していくかという中編だが、感動的なラストまで一気読みの素晴らしさだ。

 読後感がいいのにはもうひとつ理由があることも書いておきたい。前作もそうだったが、敵役を追いつめないのだ。意地悪されても、卑怯なことをされても、了と花史の最強コンビは負けないように頑張るものの、けっして相手を完膚なきまでにはやっつけない。必ず相手の逃げ場をつくってあげるのである。だから、後味がいい。放送業界の裏側を描く痛快小説だ。 (講談社 880円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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