「『死んだふり』で生きのびる」宮竹貴久著

公開日: 更新日:

 英語で死んだふりはplaying possum。ポッサムは有袋類のオポッサムのことで、ネットでもその見事な「死んだふり」ぶりを見ることができる。ニワトリやカエルの死んだふりも有名で、生き物全般でも死んだふり行動をするものは意外に多い。

 しかし、死んだふりについての学術的研究が始まったのはつい最近で、2004年、「死んだふり」が生きのびる戦略として有効なことを著者がサイエンスの世界で初めて実証したのが嚆矢(こうし)となる。

 著者は沖縄県でサツマイモの害虫アリモドキゾウムシという甲虫の不妊虫放飼法の研究をしていた。ある日、この虫を指でつつくと急に動かなくなった。死んだふり行動との遭遇だ。これを見た著者はいくつもの疑問が浮かぶ。どんな状態の虫が死んだふりをするのか? なぜ死んだふりをするのか? どのように、どれだけの時間、死んだふりをするのか? 調べると、死んだふり行動に関する研究は世界でもほとんどなされていない。ならば自分がやってみよう。その後、岡山大学へ転職した著者は研究を継続(対象はコクヌストモドキに変更)、死んだふりの時間が長い方向に育種したロング系統と短いショート系統の2種を比較し、死んだふり行動が捕食回避として実際に役立っていることを世界で初めて検証した。

 ロング系統の虫は、動かないことでエネルギーを温存でき、敵に食べられにくいだけでなく、早く成長して、タマゴも大きいので生き残りやすい。一見いいことだらけのようだが、異性との出会いが少なくストレスにも弱いというデメリットもあった。またよく飛ぶ虫は死んだふりをしないことも分かった。さらに研究を進め、虫の動きを規制するのはドーパミンであることを解明、さらにはこの研究が人間のパーキンソン症候群にも適用する可能性をも見いだす。

 まだ研究の歴史は浅いが、今後どんな発見が出てくるか、楽しみ。 〈狸〉

(岩波書店 1430円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    小泉進次郎「無知発言」連発、自民党内でも心配される知的レベル…本当に名門コロンビア大に留学?

  2. 2

    クビ寸前フィリーズ3A青柳晃洋に手を差し伸べそうな国内2球団…今季年俸1000万円と格安

  3. 3

    高畑充希は「早大演劇研究会に入るため」逆算して“関西屈指の女子校”四天王寺中学に合格

  4. 4

    9日間の都議選で露呈した「国民民主党」「再生の道」の凋落ぶり…玉木vs石丸“代表負け比べ”の様相

  5. 5

    国分太一コンプラ違反で無期限活動休止の「余罪」…パワハラ+性加害まがいのセクハラも

  1. 6

    野球少年らに言いたい。ノックよりもキャッチボールに時間をかけよう、指導者は怒り方も研究して欲しい

  2. 7

    「時代と寝た男」加納典明(19) 神話レベルの女性遍歴、「機関銃の弾のように女性が飛んできて抱きつかれた」

  3. 8

    ドジャース大谷「二刀流復活」どころか「投打共倒れ」の危険…投手復帰から2試合8打席連続無安打の不穏

  4. 9

    28時間で150回以上…トカラ列島で頻発する地震は「南海トラフ」「カルデラ噴火」の予兆か?

  5. 10

    自転車の歩道通行に反則金…安全運転ならセーフなの? それともアウト?