旅の目的は自分次第!テーマ紀行本特集

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「日本ボロ宿紀行」上明戸聡著

 かつては、行き先も移動手段もすべてお任せのツアー旅行が人気だった。しかし現在は、情報収集やチケット手配も格段に簡単になっている。自分の興味の赴くままに旅をする時代が当たり前になってきているのだ。そこで今回は、「映画」から「一文無し世界一周」まで、自由でユニークなテーマの紀行本を5冊ご紹介。



「日本ボロ宿紀行」上明戸聡著

 青森県・八戸には、明治31年創業の遊郭「新陸奥楼」が戦後に旅館に転業した「新むつ旅館」がある。八戸の宿周辺エリアはかつて漁師たちが癒やしを求めに訪れた花街だったのだ。

 宿の2階には吹き抜けの上を渡るような形の空中回廊が残され、遊郭時代の面影が随所に見られる。夕食は刺し身やぬた、ゲソ揚げなど八戸のイカを使った料理。女将さんが話してくれる宿の歴史も面白かった(2021年に休館)。

 宿には遊郭時代の遊客帳が残されており、「鮫村の西×万次郎さんは、17歳で登楼しており、中肉中背で、目鼻は普通であった」と詳細に記されている。近所の元住人が利用した記録を見つけ、話はさらに盛り上がった。

 ほかにも、石川さゆりの「天城越え」が生まれた伊豆「白壁荘」や、ラブホテルが改装された1泊2900円の「ホテル大津」など、37の味わい深い宿を巡る。

(鉄人社 1980円)

「シネドラ建築探訪」宮沢洋著

「シネドラ建築探訪」宮沢洋著

 映画やドラマには「建築」が欠かせない。

 遺伝子操作で人間の感情が排除された世界を描いたSF洋画「ロスト・エモーション」のロケ地は、「長岡造形大学」や「埼玉県立大学」など、意外にも日本が多い。

 作中では、安藤忠雄によってデザインされた「狭山池博物館」が、感情が現れた人間の隔離施設として登場する。吹き抜けが多用されたコンクリート打ち放しの壁に、階段が幾何学模様に張り巡らされたこの建築は、心を鎮静させるという映画の施設の目的を効果的に表現しているという。ほかにも、「半沢直樹」の半沢が宿敵と対峙するシーンに登場した「東京国立博物館本館」や、「ダイ・ハード」の舞台になったロサンゼルスの「フォックス・プラザ」など、実在するロケ地が紹介される。

 聖地巡礼の格好の副読本になるだろう。

(日本経済新聞出版 2640円)

「無一文『人力』世界一周の旅」岩崎圭一著

「無一文『人力』世界一周の旅」岩崎圭一著

 2001年、働き続けることに不安を抱えていた28歳の著者は、所持金160円で世界一周の旅に出る。

 新宿での路上生活から始まり、翌年、友人の知り合いが韓国・釜山行きのフェリーを手配してくれたことで、ようやく日本を出ることに成功。現地の植木屋で働かせてもらい、移動手段として3000円相当のママチャリを手に入れる。地図と100円のコンパスを頼りに西を目指してひたすら移動する。

 やがて、インドに入った著者は、日銭のために、路上で紙切れを紙幣に変える手品を披露。しかし、サイババのようなスピリチュアル信仰を持つインドの人々には、奇跡を起こしたと勘違いされてしまう。

 ママチャリ移動で無一文生活のまま、エベレスト登頂や英国「ゴット・タレント」出演などの奇跡を起こす、22年に及ぶクレージー・ジャーニー。

(幻冬舎 1980円)

「久住昌之の終着駅から旅さんぽ」久住昌之著

「久住昌之の終着駅から旅さんぽ」久住昌之著

 長野県のアルピコ交通・上高地線の終着駅「新島々駅」は名前がユーモラスでひかれる。電車に揺られながら地図を眺めると、「島々駅跡」を発見し、歩いて旧駅舎を拝むことに決めた。

 駅を降りると、目の前に絵本に出てきそうなかわいい古い建物があるだけ。静かな山中をしばらく歩いていると喫茶店を発見し、一休みする。そこでマップを見ると、すでに「島々駅跡」を通り過ぎている。慌てて引き返すが一向に見つからない。地元のおばあちゃんに尋ねると「旧駅舎は新島々の駅前に持って行ったんだよ」と言う。なんと、駅を降りて最初に見つけたのが目的地だったのだ。

 車内広告が一切なく、代わりに全国からの絵手紙が張り巡らされる上信電鉄など日本各地20の散歩が、著者の温かいイラストとともに紹介される。

(天夢人 1980円)

「北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本」室橋裕和著

「北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本」室橋裕和著

「リトル・ブラジル」と呼ばれる群馬県邑楽郡大泉町には、ブラジル原産のフルーツ、アサイーのドリンクを出すカフェなど、異国情緒あふれた商店街「グリーンロード」がある。

 特に、大型スーパー「TAKARA」の店内はブラジルそのもの。さまざまなブランドが揃う主食の豆、キロ単位でパックされた牛肉やハムなどが並び、日本人客には気さくに日本語で対応してくれるという。

 また、茨城県土浦市のインドネシア人と日本人の夫妻が営むラーメン屋は絶品。スープは、ココナツミルクとスパイスで牛肉を煮込んだインドネシアのソウルフード「ルンダン」。麺はもっちりの日本スタイルで、食文化が融合しているという。

 国道354号周辺に広がる移民社会の綿密な歴史調査も興味深い。

(新潮社 1760円)

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