身近なのに知らない からだを探求する本特集

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「ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け」平松洋子著

 一番身近で、それなしには生きられないのに、普段はあまり意識していない「からだ」という存在。今回は、そんな「からだ」について5つの側面から迫る本をご紹介。



「ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け」平松洋子著

 スポーツをすることは自分に落胆することを意味していたという著者は、アスリートの体と精神の内側に自分なりに分け入ることができないかと考えた。本書は、食を手掛かりに彼らのパフォーマンスを支える筋肉と脂肪の秘密を探るルポルタージュ。

 新日本プロレスの棚橋弘至やオリンピック選手を支える栄養士らへのインタビューをもとに、一流のアスリートと食の関係を解き明かす。

「相撲とちゃんこ」の章では、体の重量が武器にも防御にもなる相撲での食の重要性を紹介。稽古をしつつ体重を増やすためには単にカロリー過多な食では体を壊す。その点では、米というエネルギー源を中心に栄養がバランス良くとれるちゃんこ鍋は優れたメニューらしい。

 強い選手ほど自分に合う食を模索していることも指摘している。

(新潮社 2310円)


「黒衣の外科医たち」アーノルド・ファン・デ・ラール著 福井久美子訳 鈴木晃仁監訳

「黒衣の外科医たち」アーノルド・ファン・デ・ラール著 福井久美子訳 鈴木晃仁監訳

 医師といえば白衣が定番だが、かつて外科医は返り血を浴びても目立たないように黒衣を着ていた。本書は、そんな黒衣時代のイチかバチかの試行錯誤をつづった暗黒の手術史だ。

 麻酔も消毒もなかった時代、傷口は焼きごてや煮え湯で焼灼し、患部は不衛生な布で巻かれるという状況だった。そんななか、かつての手術室で何が起きたのか。その悲惨なありさまを克明に追っていく。

 たとえば、膀胱結石の摘出手術に2度失敗した鍛冶屋は、思い余って自らの手でかつての手術痕をもう一度開いて運よく結石を取り出すことに成功したものの、何年も化膿が止まらない状況に陥ったらしい。

 ほかにも無痛分娩にチャレンジしたビクトリア女王なども登場。先人たちの危険な手術の末に現代の医療があるとはいえ、痛そうな描写に悶絶必至だ。

(晶文社 2420円)

「体はゆく」伊藤亜紗著

「体はゆく」伊藤亜紗著

 バーチャル空間でスローに動くけん玉相手に技を練習したら、リアルでも技を習得できた。本書は、そんなテクノロジーと体の関係を考察しながら「できるようになる」からくりについて迫る書。

 第2章では桑田真澄のピッチングフォームを解析。「同じフォームで30回投げてください」というリクエストに本人は同じように投げたつもりが、実際は毎回フォームもリリースポイントも異なっており、しかし、キャッチャーに届くボールはほぼ一緒になったという。フォームを固定すれば安定的な結果が得られると思いがちだが、エキスパートは体を自由にさせることで望む結果を得ており、これは別競技のプロ選手やピアニストにも共通する。

 体は意識の先を行く「ユルさ」を持ち合わせており、「ユルさ」が習得の鍵というのが興味深い。

(文藝春秋 1760円)

「みらいのからだのーと 増補改訂版」早川ユミ著

「みらいのからだのーと 増補改訂版」早川ユミ著

 経済中心に生きていた世界中の人々は、コロナ禍を経て「からだ」の大切さに気づかざるを得なくなった。

 高知の畑で野菜を育て、ミツバチを飼い、果樹園の世話もする布作家の著者は、自らの生活をもとに、コロナで立ち止まった現代人に向けて、からだをとりもどすためのレッスンを本書で紹介。呼吸の仕方、心と向き合うための瞑想、冷えとりのレッスン、体の手当て術など、自分の力を引き出し元気にする方法を伝授する。

 たとえば、捻挫や乳腺炎には、里芋とショウガと小麦粉で作った湿布薬を使い、疲れが取れないときにはコンニャクを煮てタオルで包んだものを肝臓や腎臓にあてて温めるという。

 中国の仙道という健康のための思想や、アーユルヴェーダ、老子法など、西洋医学の世界ではお目にかかれない技も満載。

(自然食通信社 1980円)

「ケチる貴方」石田夏穂著

「ケチる貴方」石田夏穂著

 自分より手の冷たい人間に会ったことがない冷え性の体を持つ「私」は、日々体を温める「温活」に励んでいた。

 ホットヨガ、足裏マッサージ、激辛カレーや韓国料理などに余念がないのだが、効果は長続きせず、あっという間に冷えた体に戻ってしまう。

 そんなある日のこと、新入社員の教育係になり、普段ならやらない親切な行為をした際に急に体が温まってきたことに気づく。ひょっとすると今まで何事もケチっていたから低体温だったのかとひらめいた「私」は、その日から人が変わったように気前のいい行動をし始めるのだが……。

 第44回野間文芸新人賞候補になった表題作と、第38回大阪女性文芸賞を受賞した「その周囲、五十八センチ」を収録した小説集。体に関わる切実な問題をユーモラスに描いている。

(講談社 1650円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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