「白い拷問 自由のために闘うイラン女性の記録」ナルゲス・モハンマディ著、星薫子訳

公開日: 更新日:

「白い拷問 自由のために闘うイラン女性の記録」ナルゲス・モハンマディ著、星薫子訳

〈私はいま、家を去る最後の瞬間にこの文章を書いています。このあとすぐに私は刑務所に再び入れられます〉。本作の短い前書きはこの緊迫した文章で始まる。当局によれば、逮捕理由はこの著作が「イランを世界中の前で汚した」ことだという。

 ナルゲス・モハンマディはイラン・イスラム共和国の人権活動家でフェミニズム運動の主導者。13回逮捕され、合計31年の禁錮刑と154回の鞭打ち刑を言い渡され、現在も獄中にある。

「白い拷問」は独房拘禁を意味し、主に政治犯や思想犯に対して使われる。罪状も刑期も不明なまま狭い独房に閉じ込められ、すべての外的刺激を奪い取られる。外光は入らず、音もない。硬い床、ゴワゴワの毛布、粗末な食事。常に電球がついていて時間感覚が失われる。トイレに行くにも目隠しされ、誰とも言葉を交わせない。こんな状況に長く置かれたら、人間はどうなってしまうのか。

 本作はナルゲスの体験手記に加え、政治的、思想的理由で白い拷問を経験した13人の女性たちの証言で構成されている。市民活動家、研究者、ジャーナリスト、宗教的少数派など、政権から反体制的とみなされ、狙い撃ちされた女性たちだ。

 ある女性は語る。独房は缶詰のようなもの。中からは絶対に開けられず、缶詰を押し潰さんばかりに、重圧、孤立、不安が叩きつけてくる、と。時に何の前触れもなくドアが開き、尋問室に連れていかれ、わけのわからない尋問が繰り返される。法も正義もない。

 いま、この時代にこんなことが行われているのかと驚愕する。イスラム原理主義の現政権は、声を上げる女性を決して許さない。それでも、彼女たちはしたたかに、粘り強く闘っている。ナルゲスは2023年、獄中にあってノーベル平和賞を受けた。世界は彼女に味方している。イラン女性たちの勇気ある告発は、自由と人権を侵害されて苦しんでいるすべての人に、力を与えるに違いない。 (講談社 2420円)

【連載】ノンフィクションが面白い

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  2. 2

    紗栄子にあって工藤静香にないものとは? 道休蓮vsKōki,「親の七光」モデルデビューが明暗分かれたワケ

  3. 3

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  4. 4

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  5. 5

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  1. 6

    永野芽郁×田中圭「不倫疑惑」騒動でダメージが大きいのはどっちだ?

  2. 7

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 8

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動

  4. 9

    風そよぐ三浦半島 海辺散歩で「釣る」「食べる」「買う」

  5. 10

    永野芽郁がANNで“二股不倫”騒動を謝罪も、清純派イメージ崩壊危機…蒸し返される過去の奔放すぎる行状