おじさん、おばさんが面白い 中年が主人公の文庫本特集

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「おじさんは傘をさせない」坂井希久子著

 コンプライアンスが広がり、気軽におじさん、おばさんなんて声も掛けにくい昨今。しかしその呼称は、本来は決してネガティブなものではない。今週は世代のど真ん中にいる中年たちをおかしくも魅力的に描いた文庫本を紹介しよう。

  ◇  ◇  ◇

「おじさんは傘をさせない」坂井希久子著

 気がついたら時代に取り残されていた「おじさん」の悲哀をコミカルに描く全5編の中年小説。

 平安火災海上保険に勤める喜多川進はある日、部長から「君にセクハラの訴えが上がっている」と聞かされる。セクハラには細心の注意を払ってきたはずで心当たりはない。部長は具体的なことは教えてくれず、「セクシャルな発言を慎めばいいんじゃないか」と言うばかりで進は戸惑う。

 数日後、進は部下の鯉川みさきに育休を取る社員のしわ寄せで女性社員に不満は出ていないか、と尋ねたところ「女性社員が彼女を羨んでいるとでも?」と睨まれてしまった。進はセクハラを訴えたのはみさきだったのだと合点する。

 そんな折、ベトナム支社が洪水被害にあい、進は若手部下の広重良太を伴い出張に出る。男同士で気楽だが、良太は潔癖症でマジ使えない。お互いのイライラがピークを迎えたとき、良太が「これは男性差別です!」と叫んだ。(「スコール」)

(PHP研究所 924円)

「珈琲屋の人々」池永陽著

「珈琲屋の人々」池永陽著

 総武線沿いの小さな商店街で「珈琲屋」という名の喫茶店を営む行介は、義憤にかられて人をあやめ、服役した過去を持つ。店の常連はかつての恋人・冬子、そして幼なじみの島木だ。

 その冬子が「店の前に小さな女の子が座っていて」と連れてきた。名前は今日子、5歳。名字は不明。そして今日子が差し出した手紙には「珈琲屋のみなさんへ この子を預かってください」とつづられていた。一体、誰の子なのか。身に覚えのある島木は青ざめる。

 今日子の世話を買って出た冬子を見るにつけ、行介は複雑な思いを抱く。自分と結ばれ、かなうなら子どもも、という冬子の気持ちは分かっているが、自分が幸せになることは許されないと考えるのだ。

 そんな行介の「珈琲屋」に、堕胎を考える唯子、自殺願望のある17歳の美沙など、訳あり客が次々と訪れる。静かに耳を傾ける行介を中心にさまざまな人間模様を描く連作短編シリーズの第6弾。

(双葉社 858円)

「我は、おばさん」岡田育著

「我は、おばさん」岡田育著

「おばさん」という言葉の意味は「中年の女性」である。呼んだ人にとって「よその女性」といったニュアンスだ。しかし、女性自身も呼ばれるのを嫌がるほどネガティブな響きを持っている。本書では、小説や漫画の中に描かれる、そんな中年女性の堂々たるステキなおばさんを紹介。

 チョ・ナムジュ著「82年生まれ、キム・ジヨン」に登場する言葉の力でヒロインを救うおばさんや、異質な叔母との暮らしの中で新しい視点を獲得していく姪を描くヤマシタトモコ作の漫画「違国日記」、田辺聖子著「恋の棺」では、29歳の叔母・宇禰と19歳の甥・有二との恋を、宇禰が思うがまま手のひらの上で転がしていく。

 ほかにも、「あんなふうになりたい」と憧れられる阿佐ヶ谷姉妹についての考察、巻末にはジェーン・スー氏との対談で「言葉の定義を変えるより、若い人に、おばさんになると楽しそうと思わせることが先」など、その呼び名を女性たちの手に取り戻すエッセー。

(集英社 825円)

「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」原田ひ香著

「母親からの小包はなぜこんなにダサいのか」原田ひ香著

 大反対する母を説得し、大学進学で岩手から上京した美羽。高円寺にアパートも決まり、短大の授業も始まったが、友だちはできず、ぼっち生活を送っている。一方、母からはしょっちゅう「心配だ、帰ってこい」と電話が入り、うんざりだ。ところがひょんなことから、実は母は東京に憧れていたことを知る。

 ある日、母から宅配便が届いた。入っていたのは商店街で買ったであろうババシャツやカツオ節、そして母が作った菓子「がんづき」やビスケットの天ぷらだった。噛むごとに涙があふれた。母の気持ちも少し理解できるし小包はうれしい。だけど東京に残りたい気持ちは変わらないと美羽は思うのだ。(「上京物語」)

 夫の転勤に伴い専業主婦になった莉奈と「女も働くべし」がモットーの母との確執を描く「ママはキャリアウーマン」や「母からの小包」だと恋人に偽っていた愛華が主人公の「疑似家族」など、実家から送られてくる「小包」をモチーフに描く6編の家族小説。

(中央公論新社 814円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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