大阪の夜の町で名もなき物語の断片を切り取る「Osaka Romantics」omi kim著
「Osaka Romantics」omi kim著
デザイナー兼職人として活動する一方、拠点である大阪の街の表情をとらえてきた写真家による作品集。
本業のバッグや財布の製作記録として手にしたカメラで、「指先に伝わる質感の微細な差異、そして光の角度が描き出す陰影」を執拗に追いかけてきたという著者。その視線はいつしかカメラを通じて、日常の風景へと向かい、本書に結晶した。
刻々と変化する街が見せる一瞬の情景それぞれに、そこにある現実を超えた「名もなき物語が息づいている。私はその断片を切り取り、自身の感情を重ね合わせていった」と著者は言う。
そうして生まれた作品を、大阪のある一夜を描く一編の映画のように構成している。
昼と夜とが入れ替わろうとしている夕暮れの街では、家路を急ぐ人と繁華街に繰り出そうとしている人が交錯。ビルの影とビルの隙間から差し込む夕日に照らされ輝く広場がつくり出す陰影の中を人々が行きかう。
やがて夜のとばりが街を包み込むと、ネオンが一斉に輝きだす。道頓堀の街の入り口に設けられた派手なネオンサインは、異世界への入り口のようでもある。
その異世界に足を踏み入れれば、そこはワンダーランド。周囲のネオンサインに照らされ、川面が輝く道頓堀川を、観光客を乗せたクルーズ船が行きかい、雨に輝く道をカートが疾走する。路地を曲がれば、ひしめく飲み屋街の向こうに高層ビルが壁のようにそそり立つ。
数ページが進んだところで、読者は気が付くだろう。作品のほとんどが雨に濡れたシーンなのだ。
著者が幼いころから好きだった映画「ブレードランナー」では、絶え間なく酸性雨が降り注いでいたように、著者の撮影する大阪の街も常に雨に濡れている。
別れを惜しむかのように川辺で語らう相合い傘のカップルや、家路につくのだろうか繁華街の路地裏を肩を落として歩く男性、夜の街で働いているのだろうか雨に服が濡れないようスカートに手を添え急ぎ足で歩く着飾った女性など。
雨に濡れた路上や人々が持つ傘に乱反射するネオンの光が、著者がレンズを向けるそれぞれの「物語」を演出する。
街で暮らす猫たちにもレンズが向けられる。夜も更け、人通りが少なくなってくると、法善寺横丁など繁華街を根城にする猫たちは、自分たちこそ街の主役であるかのように自由奔放にふるまう。その姿は人間たちには見えていないかのようだ。
そして夜空が白み始めるころ、人けのなくなった戎橋の上ではまだ遊び足りないのか若者がたむろし、夜の余韻が残る街を旅行者がスーツケースをひいて次の目的地に向かう。
そうして街は、また新しい一日を迎える。
道頓堀を中心とした大阪の夜の街に流れる濃密な時間までをも写し込んだ写真集。
(芸術新聞社 3080円)



















