ドラマより楽しい? 海老蔵が歌舞伎で“出世巡る男の戦い”
サラリーマンであれば、誰もが出世したいだろう。そのために一生懸命に働いている。しかし、仕事で業績をあげた人や、同僚の間で人望がある人が出世するとは限らない。上にゴマをすったり、コネがあったり、世渡り上手な人が出世する。徳川幕府という大官僚機構でもそれは同じだった。
今月の歌舞伎座では、実力とか人望以外の理由で出世した男を描く、きわめて現代的な芝居が上演されている。
歌舞伎は「昼の部」「夜の部」があり、それぞれ別の演目なのだが、今月は両方とも昭和に作られた演劇が上演されているので、普段、歌舞伎を見ない人にも分かりやすい内容だ。大河ドラマを見る感覚で楽しめる。
悪人が出世していく話は、昼の部の宇野信夫作「柳影澤蛍火」だ。徳川五代将軍綱吉の側近、柳沢吉保をモデルにしたもので、1970年に初演された。今回は市川海老蔵が柳澤を演じる。
貧しい浪人武士だった柳澤は、世の中への復讐に燃え、将軍の生母・桂昌院に取り入る機会を得ると、出世していく。出世のためなら自分が愛する女まで差し出す男でもあり、ちょっと得体が知れない。その柳澤を追い落とそうとする僧・隆光が市川猿之助。何回か2人の対決シーンがあるが、その「冷たい熱演」がいい。綱吉を演じるのは市川中車(香川照之)で、かなり危ないマザコン男を、怪演。