「パトリシア・ハイスミスの華麗なる人生」アンドリュー・ウィルソン著 柿沼瑛子訳

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「パトリシア・ハイスミスの華麗なる人生」アンドリュー・ウィルソン著 柿沼瑛子訳

 昨年8月に亡くなったアラン・ドロンは、映画「太陽がいっぱい」の主人公の青年リプリー役で一躍スターダムにのし上がった。原作はパトリシア・ハイスミスの「The Talented Mr.Ripley(才能あるリプリー氏)」。すでにヒチコックが映画化した「見知らぬ乗客」で注目を集めていたハイスミスは、この映画によって広く名を知られることになる。ハイスミスにとってリプリーは自分自身の「抑圧された、禁じられた、時として暴力的な欲望の暗いシンボル」であり、以後晩年に至るまでリプリーを主人公にした4つの作品を残した。

 ハイスミスが同性愛者であることは生前から公然の秘密だったが、先駆的なレズビアン小説「ザ・プライス・オブ・ソルト」が本人名義で再刊(「キャロル」に改題)されるには40年以上の時間が必要だった。ハイスミスは自分の作品についてあまり語ることがなかったが、彼女の死後、生前につけていた8000ページにもわたる膨大な日記とノートが公刊され、そこには自らの性的な体験から恋人の女性たちとの関係、創作に関する葛藤の模様などが赤裸々に記されていた。本書はこの日記とノートをもとにハイスミスの波乱に満ちた生涯を詳細にたどっている。

 両親の離婚と継父との確執、同性愛への気づきとそれに対する母親の辛辣な対応に加えて、当時の同性愛に対する強い抑圧は思春期のハイスミスを摂食障害という形で追い込んでいく。そうした中、「異常」に強い関心を持ち、異常心理学や犯罪小説などを読みふけり、同時にものを書くことが彼女にとっての救いとなっていく。後年の野放図ともいえるハイスミスの恋愛関係はものを書くための重要なソースであり、その役目を果たしたところで恋愛感情も冷めてしまうということを繰り返していく。本書からは恋愛と執筆の両立を最晩年まで貫き通した稀有な作家の、告解ともいえる悲痛な叫びが聞こえてくる。 〈狸〉

(書肆侃侃房 7480円)

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