「モンストロール」塙将良画/藤井しん文
「モンストロール」塙将良画/藤井しん文
アウトサイダー・アーティストの塙氏による怪獣イラスト作品集。国内外で注目を集める氏の作品は、パリのアウトサイダー/ロウブロウ・アート専門美術館「アルサンピエール」で展示されたり、H'ART美術館(旧エルミタージュ美術館アムステルダム別館アウトサイダーアートミュージアム)に所蔵されるなどしているという。
「ケリペロスー」と名付けられたモンスターは、モンスター界の富裕層が飼う番犬ならぬ「番獣」。
犬のような胴体から長く伸びた3本の首が絡まり合い、その先のある爬虫類を連想させる3つの異なる顔は夜間に「交互に眠り、不審獣を察知するとサーチライトのようにシッポで照らし、3つの乳房から猛毒を発射」するという。
長い首には、なにやらアステカの古代遺跡を思わせるような文様や、こちらを監視するかのような不気味な目などが、細部まで空白を埋め尽くすようにびっしりと描き込まれ、怪しくサイケデリックでありながら、全体からは秘められたユーモアも伝わってくる。
そのケリペロスーの乳房の猛毒から誕生したといわれるのが食獣植物の「トリカブット」。逆三角形の形をした花は、目を持った顔のようにも見え、花から伸びた枝にはリンゴのような果実がなっている。その果実はトゲを持つツルで守られているが、そのツルは甘い匂いを放ち「匂いに誘われた獣が木の実を採ろうとすると、ガブッと噛みつき動けなくし、ツルで上腕二頭筋と楽しかった思い出を吸い取る」という。
このように、図鑑のようにすべてのモンスターに名前や生態の解説が添えられている。
そのモンスターの名前や生態、設定を考えているのが藤井氏だそうだ。
驚くべきことに、塙氏は作品を描くだけで、何の打ち合わせもせずに藤井氏が勝手にテキストをつけていくのだという。
塙氏の創作スタイルも独特だ。すべての作品は愛車の軽自動車の中で描いたものだという。
工場勤務の合間に創作をしているという氏は、始業の1時間前には出社、そして昼休みや休憩時間、さらに終業後には家電量販店の駐車場でと、トータルで毎日3時間、愛車の中で創作に没頭。
家とクルマでは集中力がまったく違い「制作のスピードもアイデアの出方も、クルマだと2倍速になる感じ」だからだとその理由を明かす。
昆虫のように幼虫期・サナギ期・そして成体へと変態する少女の人形のような3種のモンスターや、さまざまな性具を連想させるモンスター、全身が斧の刃のような元木こり獣「バッサイ」など、駐車場の車の中からこの世に爆誕したモンスター175体が12の部族に分類され並ぶ。
夢に出てきそうな奇態でありながら、その解説を読むとなぜか親近感が湧いてくる不思議な魅力を秘めた一冊だ。
(工作舎 4180円)