著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<60>杉浦日向子さんは最後に一緒に飲もうってワインを用意してくれてたのに…

公開日: 更新日:

 杉浦日向子さんと、『東京観音』の連載で東京の街を歩いたんだよ。江戸の粋にくわしくて、彼女が観音さまだったね。(文筆家・杉浦日向子は漫画家としてデビュー、一貫して江戸風俗を題材にした作品を描いた。2005年7月、下咽頭がんのため46歳で永眠。PR誌『ちくま』に1995―96年に連載)。この写真は(台東区)吉原大門の天ぷら屋「土手の伊勢屋」の前で撮ったんだよ。子どもの頃、お祭りの“お通りさま”のときには、いつも親父が連れてってくれたんだ、天丼。エビがでっかくてさ、ウチのご馳走がここの天丼だったの。

「観音さまをさがして、日向子さんとの道行き。楽しかったなー。東京っていうのは、非日常の空間がいっぱいある。皇居とか空地とか、夜になると真っ黒な穴になるところ。そんなのが、東京のどまんなかとか、ちょっとその横丁を曲がったとことかに、平気であるんだよ。観音さまもそうだったねー。単なる現世を超えた異世界とかが、歩いてると突如ポーン、っポーン、ってそこにあるんだよ。そこを猫が一瞬通りすぎたり、日向子さんが横切ったりするだけで、余計にその場所が異空間、あの世になる。不思議だねえ。気分としては、観音さまを探し歩いたとゆーより、彼女に先導されつつ、観音さまに連れられて歩いた東京。」(共著『東京観音』〔1998年刊〕より)。

彼女の思いを受けてあげられなかったんだ

 最後に彼女を撮ったのは、(下咽頭)がんの手術を受けて家に帰っていたときなんだよ。真夏のような日でね(2004年10月)。別れるときに、彼女の思いを受けられなかったね、受けてあげられなかったんだ。彼女が原稿を書いている寝室で、ライカで白バックで午後4時の光の中で撮ったんだよ。なんとか生き生き撮ろうと思ったけど、死相がどうしても…、それを出さないようにと思ったけど、どうしてもね……。

■彼女のお母さんが「もっと強く抱きなさい」と

 彼女、撮影が終わったらオレと乾杯したいって、旅行で買ってきたワインをとってあるって言ってね。ヴェネチアのムラーノ島で買ってきたグラスで、オレと一緒に飲みたいって。でも、今度来たときに、今度の入院から出たときに飲もうって、また会えるからねって別れたんだよ。彼女のお母さんがオレに言ったの。別れるときに、「もっと強く抱きなさい」ってね。それが最後になってしまったんだよ。彼女は、最後に会うから、最後に一緒に飲もうって用意してくれてて、そんなに想ってくれてたのに…。最後になぁ、強く抱きしめることできなかったんだよね……。悲しい別れだったなぁ……。彼女の写真を見ると、そのことを思い出すんだよね……。

(構成=内田真由美)

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐藤二朗の地上波ドラマはしばらく厳しいが…橋本愛の事態はもっと深刻

  2. 2

    小池栄子が一番の被害者? 佐藤二朗“ハラスメント騒動”に足引っ張られた「さよならノワール」の評価は上々

  3. 3

    戸郷が離脱、則本メッタ打ちで巨人が緊急補強へ…候補に挙がる「オリックス投手」の名前

  4. 4

    安青錦は「カラダ」より「アタマ」に課題…2ケタ勝利で大関復帰を果たせるか

  5. 5

    『ひよっこ』再放送記念、神回「ビートルズがやって来る」再録

  1. 6

    福山雅治も結婚後は苦戦…亀梨和也も正念場を迎えている

  2. 7

    佐藤二朗騒動の余波!「福田組」の長澤まさみへの“ハラスメント”舞台挨拶の悪ノリ動画が再注目…女性視聴者は嫌悪

  3. 8

    山田涼介が「令和最強アイドル」と評されるワケ…主演ドラマ「一次元の挿し木」は玉森裕太を三歩リード

  4. 9

    高市首相が衆院集中審議に“出たくない”とブー垂れ…身内の自民国対「もう疲れ果てた…」ヘトヘトのお気の毒

  5. 10

    ベタ折れで肝いり法案断念の維新 吉村代表と馬場前代表にミゾで「国会組」vs「大阪組」のバトル勃発