著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「PLAN75」早川千絵監督の才能を激賞 そして「倍賞千恵子を見るための映画」と断言できる

公開日: 更新日:

「2025年問題」という言葉がある。団塊世代全員が後期高齢者となる同年、日本は5人に1人が75歳以上の超高齢社会を迎える。「PLAN75」はこの予測を踏まえているが、企画の大きな契機になったのは、2016年7月の相模原障害者施設殺傷事件。当時を言及した早川監督のコメントが作品公式サイトにあった。

「人の命を生産性で語り、社会の役に立たない人間は生きている価値がないとする考え方は、すでに社会に蔓延しており、犯人特有のものではない。政治家や著名人による差別的な発言も相次いで問題になっていた」

 第3次安倍内閣の時代だった。殺傷事件の前月、麻生太郎副総理は、将来の不安をあらわにした90代を「おまえ、いつまで生きているつもりだ」と揶揄した。

 麻生さんはあのとき何歳だっけ? 調べてから鳥肌が立った。まさに75歳だったから。

 作品に希望があるとすれば、若い登場人物の「気づき」だ。磯村勇斗河合優実(両者名演!)扮する心優しき若者たちは、プラン75の普及と施行に尽力してきた。だがある日気づく。自分は無自覚なまま、非人道的極まりない政策に加担してきたのでは。そして動く。世界を回すにはいつも若い力が必要であることを、監督はセリフ少なく、でも力強く訴える。

 早川監督がカンヌ映画祭で表彰されてわずか3カ月半の9月13日、かつて同映画祭の粉砕事件を首謀した巨匠ジャン=リュック・ゴダール監督がスイスで亡くなった。享年91。疲労困憊を理由にした安楽死だった。なんとも示唆的ではないか。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広陵暴力問題の闇…名門大学の推薦取り消し相次ぎ、中井監督の母校・大商大が「落ち穂拾い」

  2. 2

    志村けんさん急逝から5年で豪邸やロールス・ロイスを次々処分も…フジテレビ問題でも際立つ偉大さ

  3. 3

    (4)指揮官が密かに温める虎戦士「クビ切りリスト」…井上広大ら中堅どころ3人、ベテラン2人が対象か

  4. 4

    今なら炎上だけじゃ収まらない…星野監督は正捕手・中村武志さんを日常的にボコボコに

  5. 5

    「高市早苗総裁」爆誕なら自民党は下野の可能性も…“党総裁=首相”とはならないワケ

  1. 6

    志村けんさん急逝から5年、更地になった豪邸の記憶…いしのようことの“逢瀬の日々”

  2. 7

    佐々木朗希いったい何様? ロッテ球団スタッフ3人引き抜きメジャー帯同の波紋

  3. 8

    広陵辞退騒動だけじゃない!「監督が子供を血だらけに」…熱戦の裏で飛び交った“怪文書”

  4. 9

    広陵野球部は“廃部”へ一直線…加害生徒が被害生徒側を名誉棄損で告訴の異常事態

  5. 10

    (3)阪神チーム改革のキモは「脱岡田」にあり…前監督との“暗闘”は就任直後に始まった