松尾潔
著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「PLAN75」早川千絵監督の才能を激賞 そして「倍賞千恵子を見るための映画」と断言できる

公開日: 更新日:

 狂騒的コメディーとしても成立しそうなテーマ設定だが、ディストピアのひと言で安易にカテゴライズされるのを拒むような繊細な演出は、早川監督の非凡さを物語る。「これってあり得るかも」と感じさせるリアリティーを随所に配することに余念がない。昨今の日本映画にはびこる「すべて語りつくすセリフ」や「誤読の余地ない演技」とはまったく無縁。説明を極力排除することで表現としての豊かさを獲得したとも言える。全編で通奏されるのは観客への強い信頼に他ならない。

 そして倍賞千恵子のすばらしさ! この一本であらゆる主演女優賞を総ナメにしても、ぼくはつゆほども驚かないだろう。監督の才能を激賞することと「この映画は倍賞千恵子を見るためにある」と断言することが同義になるのが、「PLAN75」最大の達成か。

 倍賞演じる身寄りのない78歳の勤勉なホテル清掃員ミチは、凜としたたたずまい、うつくしい言葉遣い、つつましい所作で「旧き佳き日本」を体現する。そんなミチが奮闘むなしくプラン75を選択するにいたる、世のままならなさ。観客はそれをお安い同情や憐憫からではなく、いつの間にか生まれていたミチへの共感から理解する。まず演技があるのではない。そこには人間がいる。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    仲野太賀に注目!NHK朝ドラ「虎に翼」で寅子と結婚…そして、もうすぐ“優三ロス”が起こる

    仲野太賀に注目!NHK朝ドラ「虎に翼」で寅子と結婚…そして、もうすぐ“優三ロス”が起こる

  2. 2
    悠仁さまは推薦入学で東大を目指すも…名門・筑波大付属高校が持つ「4人」の枠に入れるのか?

    悠仁さまは推薦入学で東大を目指すも…名門・筑波大付属高校が持つ「4人」の枠に入れるのか?

  3. 3
    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

    エジプト考古学者・吉村作治さんは5年間の車椅子生活を経て…80歳の現在も情熱を失わず

  4. 4
    ドジャース大谷のタイトル獲得に「待った!」をかけるナ・リーグ屈指の怪物打者3人

    ドジャース大谷のタイトル獲得に「待った!」をかけるナ・リーグ屈指の怪物打者3人

  5. 5
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  1. 6
    木村拓哉「Believe」初回好発進は“ご祝儀”?堺雅人や長谷川博己はやっぱり役者として格が違う

    木村拓哉「Believe」初回好発進は“ご祝儀”?堺雅人や長谷川博己はやっぱり役者として格が違う

  2. 7
    新NHK朝ドラ「虎に翼」気になる3つのジンクス…「らんまん」「ブギウギ」の好調を引き継げるか

    新NHK朝ドラ「虎に翼」気になる3つのジンクス…「らんまん」「ブギウギ」の好調を引き継げるか

  3. 8
    伊藤沙莉「虎に翼」《これぞ理想の男》と人気キャラ爆誕!戸塚純貴演じる「俺たちの轟」の気になる先行き

    伊藤沙莉「虎に翼」《これぞ理想の男》と人気キャラ爆誕!戸塚純貴演じる「俺たちの轟」の気になる先行き

  4. 9
    スタバより仕事がはかどるチェーンは?コーヒー1杯じゃもったいない!メニューと居心地を徹底比較

    スタバより仕事がはかどるチェーンは?コーヒー1杯じゃもったいない!メニューと居心地を徹底比較

  5. 10
    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較

    キムタクを縛り続ける《公称176cm》のデータ…「Believe」番宣行脚でも視聴者の関心は共演者との身長比較