著者のコラム一覧
松尾潔音楽プロデューサー

1968年、福岡県出身。早稲田大学卒。音楽プロデューサー、作詞家、作曲家。MISIA、宇多田ヒカルのデビューにブレーンとして参加。プロデューサー、ソングライターとして、平井堅、CHEMISTRY、SMAP、JUJUらを手がける。EXILE「Ti Amo」(作詞・作曲)で第50回日本レコード大賞「大賞」を受賞。2022年12月、「帰郷」(天童よしみ)で第55回日本作詩大賞受賞。

「ムーラン・ルージュ」は搾取に命がけで抗う者たちの群像劇であると痛感した

公開日: 更新日:

 先月末、帝国劇場で『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』が開幕した。上演は8月末まで続く。つまり帝劇の夏はこれ一色である。

「東宝がガチで社運をかけた」と業界人が口をそろえて言うだけあって、大がかりな舞台装置の美しさにはため息が出る。その豪華さは、主演の井上芳雄が「本当に心配になるくらいお金がかかっている」と吐露しただけでなく、10月に同劇場で『チャーリーとチョコレート工場』の主演を務める堂本光一までもが記者会見で「(『ムーラン・ルージュ』に)予算とられすぎて、こっちの予算は大丈夫ですか?」とボヤいたほど。

 物語は1899年のパリが舞台。ボヘミアン、芸術家、貴族が交錯するナイトクラブ『ムーラン・ルージュ(赤い風車)』では、退廃の美にあふれた空間で豪華絢爛なショーが催される。そのスター女優サティーンと、自由な創作の場を求めてパリにやってきた米国人作曲家クリスチャンは、出会ってすぐ恋に落ち、命がけで愛しあう──。

 この破格の大型ミュージカルは、スピード感に満ちた映像美で知られるバズ・ラーマン監督の2001年の同名ヒット映画に基づく。2018年にボストンで初舞台化され、翌年にはブロードウェイに進出、その後は米国ツアー、ロンドン、メルボルン、ソウルを経て、満を持して日本版上演となった。

 クリスチャン役が井上と甲斐翔真、サティーンが望海風斗と平原綾香のダブルキャスト。ミュージカルに興味のある方なら、この組み合わせが現在のトップ・オブ・トップスということは容易に理解できるだろう。しかも平原と望海は少女時代に同じバレエ教室に通っていたというから、このキャスティングには因縁を感じる。

 音楽面の特長は、ポップスやクラシックの名曲が網羅され、ときには複数の曲がリミックスされて劇中歌として用いられていることだ。この形式はジュークボックス・ミュージカルと呼ばれる。日本版上演にあたっては全曲が書き下ろしの日本語詞で歌われた。エルトン・ジョン「Your Song」を松任谷由実が手がけたほか、普段はポップスやロックの世界に身を置く17名のアーティストや作詞家が、1曲ずつ訳詞を担当したのだから、じつに念が入っている。

 物語で大きな役割を果たす希少なオリジナル曲が「Come What May」。まず主演ふたりが歌い、終盤ではキャスト全員で歌唱する重要曲だ。その日本語詞を書く栄に浴したぼくは、仕上がりと観客の反応を確認するべく、帝劇に足をはこんだ。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    元フジテレビ長谷川豊アナが“おすぎ上納”告白で実名…佐々木恭子アナは災難か自業自得か

  2. 2

    中居正広は「地雷を踏んだ」のか…フジテレビに色濃く残る“上納体質”六本木『港会』の存在

  3. 3

    ビートたけし「俺なんか悪いことばっかりしたけど…」 松本人志&中居正広に語っていた自身の“引き際”

  4. 4

    「文春訂正」でフジテレビ大はしゃぎも…今田耕司、山里亮太、カンニング竹山ら“擁護”芸能人の行きつく先

  5. 5

    フジテレビ騒動で蒸し返される…“早期退職アナ”佐藤里佳さん苦言《役員の好みで採用》が話題

  1. 6

    《フジが反転攻勢》《どうする文春!》中居正広問題の文春記事訂正に大はしゃぎの違和感…“直取材”対象はどこにいる

  2. 7

    フジテレビ系の冬ドラマ「警察もの」2本はありえないお話しすぎてズッコケの連続

  3. 8

    フジ・メディアHD経営刷新委に吉田真貴子氏の名前…"高級和牛ステーキ接待"で辞職→天下り疑惑の元総務官僚

  4. 9

    中居正広氏は37年で築いた資産喪失の瀬戸際…不動産複数所有で倹約家も「違約金+α」の脅威

  5. 10

    極秘結婚の小島瑠璃子 略奪愛は打ち消されるも…思い出される「付き合う前にいたす」発言

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「二刀流」大谷翔平と「記録」にこだわったイチロー…天才2人の決定的な差異

  2. 2

    元フジテレビ長谷川豊アナが“おすぎ上納”告白で実名…佐々木恭子アナは災難か自業自得か

  3. 3

    元フジテレビ長谷川豊氏“危機管理のプロ”が古巣告発は禁じ手? 大反響の動画チャンネル行脚の裏事情

  4. 4

    2人の殿堂入りは確実…大谷翔平&イチロー「軌跡」にこれだけの酷似点

  5. 5

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  1. 6

    26億円投入のお台場巨大噴水事業が「フジ日枝案件」と露見…小池都知事による激怒と錯乱と珍答弁

  2. 7

    “かつての名門”武蔵の長期低落の深刻度…学習塾「鉄緑会」の指定校から外れたことも逆風に

  3. 8

    実にゆったりと楽そうに歌っている感じがする

  4. 9

    「(来季の去就は)マコト以外は全員白紙や!」星野監督が全員の前で放った言葉を意気に感じた

  5. 10

    岩井姉妹らツアールーキーたちを狙い撃ち? まるで嫌がらせ…米女子ゴルフの「厳しい洗礼」はトラウマ級