「THE VISUAL 加藤宗一郎作品集 化心」加藤宗一郎著
「THE VISUAL 加藤宗一郎作品集 化心」加藤宗一郎著
ジャンルを超えて活動するイラストレーターの作品集。
本作品集のモチーフの多くは、若い女性だ。
冒頭に登場するのは、透明感のあるライトブルーの美しい髪をした女性だ。まるで読者を見つめるように見開かれた瞳は、左右がそれぞれライムとバイオレットカラーと虹彩の色が異なり、右目は天使を思わせる翼、左目は悪魔を連想させるコウモリのような翼で縁どられている。
さらに鼻筋や頬には、タトゥーシールなのか、女性のリアルな描写とはテイストが異なるアニメ調の天使と悪魔が描かれている。
単なるファッションとしてのメークなのか、それともこの女性の心の内で同様に天使と悪魔が葛藤を繰り広げているのか、つい想像してしまう。
隣のページの「海と空のすきま。」と題された作品は、タンクトップを着た女性が視線に気づいたかのように振り返り、こちらを見つめる。
その目は、怒りをたたえているようにも、何かに耐えているようにも見える。かすかに開いた唇から彼女が奥歯をかみしめているのが分かるからだ。
続くページの女性は、両手で頭を支えながら何やら思案をしている様子。その左手に巻かれた赤いリボンにあれこれと想像をしてしまうが、リボンはほどけてまもなく手首から落ちていくだろう。女性の横には振り子時計が逆さまになって描かれており、タイトルに「解決してくれる時間を作るのも私。」とある。
さらにその横には大きな柔らかい枕を抱いて目を閉じ、安らかな顔で枕に頬を寄せる女性が描かれる。しかし、その枕からは色とりどりの突起が突き出てきており、よく見るとその一つが女性のお腹に突き刺さり血がにじんでいる(作品名「もう痛くないから。」)。
このように、容姿やファッションは現代の若い女性たちを描きながら、その作品はどこか不穏な空気を醸し出しており、彼女たちの抱える生きづらさまでもが伝わってくる。
ほかにも、高校生だろうか、女の子のシルエットの中にその子のさまざまな日常の姿がまるで走馬灯のように描かれた作品(「骨格。」)や、ドレスを身にまとってうつむいた女性の顔の一部がはがれたかのように宙に舞い上がり消えていく作品(「想愛に。」)など、一枚の絵から、描かれたそれぞれの女性の物語が紡ぎ出され、読者をその作品世界に引き込んでいく。
変化することに対して恐怖があったという著者だが、それは「何かを変えようと思うとき、今まで積み上げてきたものを壊す感覚があってそれを想像するのが怖かった」からだそうだ。
しかし、大きな形が壊れても、その中に形を成しているものがあり、その存在に気づいたときに恐怖はなくなり、変わることの楽しさを知ったという。全作品を通して描かれているのは、女性たちの心のうちにあるそんな「壊れないもの」なのかもしれない。
(トゥーヴァージンズ 3960円)