「若者が去っていく職場」上田晶美氏
「若者が去っていく職場」上田晶美氏
退職代行業者が1年で一番忙しい時期はGW明けの時期だという。それも4月に入社したばかりの社員の利用者が多いらしい。厚労省が発表した2021年3月に卒業した新卒新入社員の3年以内の離職率は34.9%。「最近の若者はすぐやめるし、転職が当たり前になっている」を実感している人も多いだろう。
「離職する若者たちには2通りいます。ひとつは、仕事が気に入らなかったらバイト感覚で次々と変わりキャリアプランを持たない人。もう一方は、いろいろな経験をするために戦略的に転職をし、キャリアを築き上げていこうとする人です。いずれにしても昨今、若者の8割が転職を視野に入れています」
本書は、キャリアコンサルタント歴30年の著者が若者世代の離職の本音や職業観を明らかにし、昭和生まれの40、50代ミドル層が持つ若者への視点を変え、職場の環境をよくする一助となるように書いたものだ。
実例も数多く紹介されているが、若者が会社を辞めようと思ったキッカケにミドル世代は戸惑うかもしれない。
たとえば「フィンテック」の会社で働く20代の男性はフルリモートの条件のコロナ禍入社組。だが2年目には週3日の出社に。労働契約違反を訴えても上司は的外れな返事で、転職活動を始めた。
医療機器メーカーに勤務する20代後半の男性は、上司が何でも電話で指示を出してくることに辟易している。メールが届いても「確認して」と電話。帰宅後、赤ちゃんの世話をしていたところ上司から電話があったこともあり、将来的には育休を取りたいが不安だと悩んでいるという。
「社会人の最初からフルリモートの世代は、働くという概念が旧世代とは全く違います。また、若者はタイパ重視で、仕事は電話ではなくチャットやメールでのやりとりを好みますし、ワークライフバランスを重視するのでプライベート時間に割り込まれるのは、たまったものではありません」
強気な若者世代が生まれた背景には日本の人口減少、少子高齢化で若者の希少性が高まったことがある。さらに19年から施行された働き方改革関連法やパワハラ防止法により、若者たちを守る動きがより強固になった。一方で、近年、文科省がキャリアデザインの勉強を推奨していることも若者の転職への関心を強めている。
大学で講師も務めている著者の元には、学生から「転職に有利な会社に入りたい。どういう会社に入ったらその先キャリアが積めますか」と転職を前提にした就職相談も少なくないという。
「ミドル世代と若者の溝の理由をひと言で言えばキャリア権です。会社には人事権があり、人事異動はミドル層にとっては絶対的なものでした。でも今の若者世代はそうじゃない。自分たちには個人の権利として仕事の経験を積んでいくキャリア権があると学んできていますから、配属ガチャになれば自分のためのキャリア形成を考えて転職が選択肢となるのです」
本書では、若手の本音や若者が集まる職場実例を紹介しつつ、すぐにでも活用できそうなコミュニケーション改善方法なども提示している。
「若者が簡単に会社を去っていかないようにするためには、ミドル層が変わる必要があります。定期的に1on1で面談をする、初めに口頭ではなく文字で説明する。こんな時代だからこそ、若者だけでなく誰にとっても働きやすく協力し合える職場を目指してほしいですね」
(草思社 1760円)
▽上田晶美(うえだ・あけみ)㈱ハナマルキャリア総合研究所代表取締役。1983年、早稲田大学教育学部卒業。93年、日本初のキャリアコンサルタントとして創業。テレビ、ラジオにも出演多数。都内の大学で講師も務める。著書に「女子が一生食べていける仕事選び」など多数。