女優・春風ひとみさん 子役と宝塚、2度もやめるきっかけになった宇野重吉さんとの大切な一枚
越路吹雪さんに抱っこされたことは女優人生の大きな自信
もう一つのかけがえのない出会いも子役時代です。越路吹雪さんとミュージカルでご一緒することができた。東宝のミュージカル「王様と私」です。
王様は市川染五郎さん(現・松本白鸚)、アンナが越路さん、タプチムが淀かほるさん、皇太子役が岡崎友紀さんでした。私はちっちゃい王女様の役をやりました。
この時の記憶も強烈です。ステージで子供たちが越路さんの横に並ぶんですけど、私の隣にいた子の床がだんだん濡れていく。おかしいなと思ったら、お漏らししてたんですね。
私の記憶違いもあるかなと思って、当時プロデューサーだった方に後で確認したら、「その通りだよ」と。それからは開演前には子供たちを必ずトイレに連れて行くようにされたそうです。
越路さんの記憶はカツラですね。いくつもカツラをかぶり直すので、舞台裏にカツラがズラッと並んでいた。すごい数でした。それがさらし首みたいで、子供心に怖くて近づけなかったですね。
越路さんも宇野先生とは通ずる面がありました。越路さんもいつも別室にいらして、周囲の方と騒いでいたり、話をしている姿を思い出せないんです。子供でもわかるくらいのオーラを感じたし、まさに別格。
越路さんとの写真は2枚あります。越路さんと舞台に並んで立っている写真は楽屋にいつも飾るようにしています。
もう一枚は正確には写真ではなくて、「王様と私」とかの舞台の時に、雑誌に載ったものを切り取ったものです(秘蔵写真②)。舞台で私が越路さんに抱っこされています。
私は5歳。越路さんは去年が生誕100年でこの時40歳前後。シャンソンの女王としてのご活躍はもちろん、海外の有名なミュージカル作品に次々と主演されていた時代の写真だと思います。
越路さんに抱っこしていただいたことは私の女優人生の大きな自信になっています。舞台でどんなにおじけづきそうになっても、あの越路さんに抱っこされたんだから大丈夫と、言い聞かせるようにして。
私の楽屋に越路さんと写った写真があるという噂が噂を呼んで、見せてくれと言う人も多いです。ある時、東宝のお偉いさんが見にこられたことがあって。抱っこした写真を見せて「どこの雑誌か、カメラマンもわからないけど、機会があったらみなさんにお見せしたい」と言ったら、「古過ぎて僕らもわからないから、オープンにしてもいいんじゃないか。名乗り出た人がいても説明すればわかってくれるよ」と言われました。
この当時、越路さんは宇野さんと組んで民芸の舞台にも何本か出てらっしゃいます。この時代のことをお話しできるのは多分、私の世代がギリギリかもしれませんね。
7月には「千と千尋の神隠し」の上海公演があります。昨年から湯婆婆/銭婆(ゆばーば/ぜにーば)役で出演しています。演出は世界的に有名なジョン・ケアードです。先にミュージカル「ジェーン・エア」でご縁があり、そして「千と千尋」にもお声がけをいただきました。昨年はロンドン公演、そして今年は上海公演。宮崎駿作品は中国でも大人気だそうなので、舞台版「千と千尋の神隠し」も、お楽しみいただけたらと思っています。
(聞き手=峯田淳)
▽春風ひとみ(はるかぜ・ひとみ)1960年、東京都出身。2~5歳は劇団若草で子役として活躍。77年、宝塚音楽学校に65期生として入学、娘役で活躍。88年退団、舞台を中心に活動。舞台「千と千尋の神隠し」の上海公演は7月14日~8月17日の日程で行われる。