「後輩に緊張されたら終わり」 巧妙にスキをつくり弱みをさらけ出す笑福亭鶴瓶のお笑い哲学
電車が発車し、ファンが見えなくなると、食べかけのまま、そのおにぎりをしまった。さんまが「もう食べないのか」と問うと、鶴瓶は当たり前のように「見てないとこで食べてもしゃあないがな」と笑った(エムカク著「明石家さんまヒストリー1」新潮社=2020年11月17日発売)。
こうした鶴瓶の“偽善的”ともいえる、いわゆる「悪瓶」の部分を最初に世に広めたのがさんまだった。
鶴瓶は、そうやって後輩からイジられることをいとわない。極めつきは、まだ30代半ばだったダウンタウンと共演したとき。2人はMCである鶴瓶に「しゃべりが長い!」「ダラダラしすぎ!」などと容赦なくダメ出しをする。「勘弁してくれ、自信なくなるわ、なにもかも!」と言う鶴瓶へさらにダメ出しが続くと、ソファに突っ伏し、座布団を何度も打ちつけながら叫んだ。
「もっとおもろなりたい! もっとおもろなりたい!」(日本テレビ系「いろもん」98年6月6日)
長いキャリアの中で確立した「鶴瓶」像を背景に、自ら巧妙にスキをつくり、弱みをさらけ出していく。「若手に緊張されたら終わりだと思ってる」(ニッポン放送「笑福亭鶴瓶 日曜日のそれ」10年10月24日)というのが、鶴瓶のお笑い哲学なのだ。
冒頭の番組で、さんまに散々“説教”され、イジられ続けた鶴瓶は「でも気持ちええやろ、こいつにもうガー言われたら、初めはちょっと嫌やってんけど、だんだんね、快感になってんねん」と、例の“悪瓶”顔で笑った。