「人間・明石家さんま」を上梓した日テレの元プロデューサー・吉川圭三氏が見た「本人の素顔」
「吉川君はハニートラップやなくてファミリートラップやから、家族で攻めてくる」って言われてまして
──本人の原稿チェックはナシ。吉川氏は全幅の信頼を置かれる存在だ。
「日刊ゲンダイで連載する際も、出版の際にもお伺いを立てましたが『吉川君の本やから』と結局一度も見ませんでした。番組や新しい企画を提案する場合もですが、内容はともかく人でOKすることは多いですね」
──吉川氏のオトボケキャラも距離を縮めたきっかけになっている。
「そう、初めて出会った頃に、中学時代ボウリングやってました、って前フリして、マイボールにグローブはめて自信満々で登場したのにド下手で。さんまさんが笑い転げたのが逆に親しくなるきっかけになりました。今は『吉川君はハニートラップやなくてファミリートラップやから、家族で攻めてくる』って言われてまして。ウチの娘を弟子にしたいと言われるほど気に入ってもらっています。もちろん笑いの仕事の現場に入ると“鬼”になるので、丁重にお断りましたが(笑)」
──さんま式新番組の選定基準もあるそうで。
「前例のないことは好感触。逆に前に誰かがやったことのある内容は断る。その中で、視聴者、自分ができる事、共演者の考え、制作側の意図、世の中の流れ、すべてを丸く収めるのはすごいと思います。だから木村拓哉さんも慕っているのだと思います」
──キムタクが師匠のように慕っているのも有名な話だ。
「きっと仕事や芸に対する妥協を許さない姿勢とその生き方に魅せられて、自分の師匠的な存在にしようと考えたのでしょう。最近、問題を起こして報じられている人は師匠のいない人たちが多い。おそらく畏れる存在がいないので自分が見えなくなるんじゃないかと僕は思います。さんまさんを含め、皆さん道を外さないのは良き師匠がいたから。だから木村さんも道を間違うことがないのでは」
──本書に書いていないエピソードをひとつ挙げるとしたら。
「そうですね。年末年始のオーストラリア旅行に行く際、さんまさんの寝顔を見たこととか。正月特番など全収録を終えて極限状態で飛行機に飛び乗るわけです。『ほぉ。ホンマか?? それはオモロイ……』いつしか相づちがなくなり、寝落ちしていました」
──誰よりも眠らないさんまの寝顔とは?
「オーストラリアでも皆が耐えられなくなるくらい眠らないので、身内以外で寝顔を見たのは僕だけでしょうね。スイッチの切れたさんまさんはまるで“暑さでぐったりとしたひな鳥”みたいにちょっと“貧相”で(笑)」
──エピソードはまだまだ書ききれない。
「でもこの本を書いている時はさんまさんが近くにいる感じでとても楽しかったですし、僕もさんまさんの番組をやっている間は毎週のようにさんまさんと接することでパワーをもらっていました。書き上げてみて、さんまさんが占めていた大きさを痛感すると同時に、明石家さんまという前代未聞の大きな存在を一応記録に残せた事には心から感謝しています」
(構成・文=岩渕景子/日刊ゲンダイ)