著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

ニジノ絵本屋2号店(水道橋)表紙の物語の音が聞こえてきそう

公開日: 更新日:

 東京ドームシティ内。白山通りすぐの1階に、コンテナショップがかたまった一角が昨年夏にできていて、その中の一軒だ。

 店頭に、超ロングセラーの「ちいさいおうち」、ロングセラーの「くつしたしろくん」など9冊が表紙を見せる。足を止めていると、「どうぞ中へ」と店長・鷲見豪さん(39)が現れ、クスッと笑ってしまった。

 鷲見さんが鼻の下に「いかにも」な感じの付けヒゲをしていたからだ。

「あ、これ? ジャグバンドをやっていて、僕たち『ザ・ワースレス』のトレードマーク。ライブのとき、メンバー5人ともこのヒゲを付けるんです」

 ジャグバンドとは、1900年代初めにアメリカで、ウイスキーボトルなど生活用品を楽器に始まった音楽形式だそう。「ザ・ワースレス」で鷲見さんはギターとボーカル担当だが、洗濯板やマリオネットを使うメンバーがいると聞いて、「わっ、聴きに行きたい」と思わず。しかし、ミュージシャンがなぜ絵本屋さんの店長に? 

4坪の店内に絵本の世界にハマった店長セレクトが300冊

「9年前、『すきやき』がきっかけでした」

 4坪弱の店内に約300冊。ほぼ全冊が表紙の見える陳列だ。その中央部から鷲見さんが、ずばり「すきやき」というタイトルの一冊(はらぺこめがね作)を抜き取り、そう言った。

「バンド仲間の紹介で、都立大学の『ニジノ絵本屋』オーナーのいしいあやさんと出会って。ニジノ絵本屋は絵本の出版もしていて、『すきやき』もそう。読んで、絵本とは子どものものというイメージがころっと変わったんです」

 いわく、その「すきやき」は、「すき焼きと宇宙が題材」「オノマトペで音まで美しい」「(絵本は)音楽と同じくらい自由」。かくかくしかじか、絵本のトークライブを始めるなど、絵本の世界にハマっちゃった鷲見さんだったのだ。

「店長権限で(笑)、僕の好みで選書しています」

 本棚を眺める。「めがねこ」「きょうのよるごはん」「みんなのおすし」「オーケストラ」「オフロケット」「どきどきしてる」……。表紙から、物語の“声”が聞こえてくるのは気のせいか

「この本、台湾やイタリアで見て、日本でも早くでないかなーと思ってたら、今年7月に出版されました」と鷲見さんが「ワニが しごとに でかけます」を手にした。朝の支度をして、地下鉄に乗って、ワニが仕事に出かけていく、ミラノ発の絵本だ。ストーリーが文字なしで語られる。ものすごくすてき。

「子ども連れでない大人の方にも見にきてほしいですね」(鷲見さん)

◆文京区後楽1-3-61 東京ドームシティ内バイキングゾーン/JR総武線・地下鉄三田線水道橋駅から徒歩4分/℡070・7589・1775/午前11時~午後6時、無休

ウチのおすすめ本

「TALK Jug Band “The Worthless”」ザ・ワースレス作 かげやましゅん絵 島田佳奈英訳

「愚痴を聞いたり、お悩み相談にのったり。リスナーから届くメールに応えながら、日本のいろいろなところを走って旅するラジオカーのお話です。僕たち『ザ・ワースレス』の5人で協力して作ったんです。日本語、英語を併記。独特なのは、8カ所にQRコードがついていて、読み込むと歌が流れること。物語に関連する8曲が聴け、さらにCDも付いていて、お得感いっぱいです(笑)」

(ニジノ絵本屋刊 2350円)

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