従事者が描く!リアルな医療小説特集
「老坂クリニック」南杏子著
医師として、看護師として働いた経験がある著者だからこそ書けるリアリティーのある医療小説がある。今回は、医療従事者が描いた、高齢者を診る老年内科の診療所、大学病院の周産期母子医療センターなどを舞台とするリアルな医療小説を4冊ご紹介する。
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「老坂クリニック」南杏子著
昭和な雰囲気が漂う「老坂クリニック」は、老年内科の診療所。30年ほど前に老坂隆先生とその妻の小町先生で開業したが、隆先生が脳出血で倒れて以来、小町先生が院長となり地域の高齢者に頼りにされてきた。そんな診療所に大学病院からやって来たのが、ごく普通の疾患を丁寧に治療する医療をやりたいと自ら飛び込んできた、若き医師の山里羊司。処方として患者さんに短歌を手渡すちょっと変わった小町先生の下で、彼は修業に励むのだが……。
高齢者病院で内科医として勤務しながら、「アルツ村 閉ざされた楽園」などの小説を手掛ける人気作家による医療小説。エンディングノートが書けない人、白内障の手術が怖い人、運転免許返納に抵抗する人などに対して、よりよい日常への処方箋を繰り出す小町先生の手腕が頼もしい。 (講談社 704円)
「はい、総務部クリニック課です。メンテナンスのお知らせ」藤山素心著
「はい、総務部クリニック課です。メンテナンスのお知らせ」藤山素心著
清掃用具などの美化用品を製造販売する企業「ライトク」東京本社に通勤するようになって8年、健康管理を担うクリニック課に異動になって1年3カ月となった松久奏己は、新たな福利厚生に取り組むことになった。それは、「夏休みの学童保育問題」。行き場のない子どもたちと社員のために本社5階を開放して、夏休みに社内児童クラブを終日設置することになったのだ。クリニック課の受け付け業務に加え、子育て支援室の社内児童クラブの管理をすることになった松久。さらに健康診断の結果報告時期も訪れるのだが……。
累計10万部を突破した「はい、総務部クリニック課です。」シリーズ第6弾。医師である著者のリアルな目線から、働く人たちに起こる健康問題への根本的なさまざまな取り組みが描かれている。 (光文社 792円)
「あしたの名医3」藤ノ木優著
「あしたの名医3」藤ノ木優著
天渓大学医学部付属伊豆中央病院(通称:伊豆中)の総合周産期母子医療センターで働く産婦人科医・北条衛を中心に、そこでの出来事を描いた「あしたの名医」シリーズ第3弾。
今回は、腹腔鏡手術予定の子宮外妊娠の患者がドクターヘリで運ばれてきたシーンから物語は始まる。伊豆中としては10年ぶりの、衛にとっては初の腹腔鏡手術だったが、特に問題のない手術のはずだった。しかし手術が始まってすぐそれが難しい症例だとわかってくる。安全性を重視した開腹手術か、患者の望む腹腔鏡手術か。限りある時間のなかで難しい選択に迫られるのだが……。
産婦人科医の著者だけあって、医師、看護師、助産師など、協力し合う医療スタッフそれぞれの事情や心情がリアル。青年医師の成長物語としても読むことができる。 (新潮社 781円)
「桃井ナースがお邪魔します」秋谷りんこ著
「桃井ナースがお邪魔します」秋谷りんこ著
主人公は、27歳の訪問看護師・桃井由乃。ベテランナースが多い訪問看護師の世界に入ってからまだ2年の若手ナースだが、由乃には「家の怪異」が見えるという不思議な力があった。住んでいる人の精神状態や抱えているもの、困っていることや悲しみなどが、暗い穴などの具体的な形になって、由乃の目に映るのだ。介護者が代わってから膨らんで見えるようになった家の下駄箱や廊下、家具が消える家、いたるところに石が置いてある家など、訪問先の家で怪異を発見した由乃は、一見わかりにくい家族の異変を探っていく。
看護師として10年以上のキャリアを持つ著者が描いた看護師ミステリー。外からはわかりにくい「家」を舞台に、主人公が持ち前の明るさとその不思議な力で多くの家族を幸せにしていくストーリーが温かい。 (朝日新聞出版 858円)



















