下村敦史(作家)
9月×日 11月に刊行予定の新刊リーガル・サスペンス「暗闇法廷」(双葉社)のゲラに取り組む。
9月×日 光文社の新連載「ネタバレあり ~双紋島の殺人」の改稿と同時進行で、来年刊行予定の「あいつも誰かに殺される」(集英社)の改稿作業に取り組む。
9月×日 自宅の建築でお世話になったビルダーさんと会い、隣に建築中の書庫に関する打ち合わせをする。書斎を造ってくれた職人さんへの要望は、“2階建ての吹き抜けで四方が本棚に囲まれており、ドラキュラが棲んでいそうなゴシック様式の図書館”──というものだ。デザインを一任していることもあって完成が楽しみ。
9月×日 織守きょうやさんの新刊「ライアーハウスの殺人」(集英社 1980円)を読む。
莫大な遺産を得たお嬢様が、かつて自分の書いた小説を馬鹿にした者の殺害を計画するという、なかなかぶっ飛んだ設定で、目的のため、隠し通路がある館の建築を施工業者に依頼するシーンから始まる、妙にリアルなミステリーだ。綿密に練った連続殺人計画は、殺した覚えがない死体の登場によって狂いはじめる。
僕自身、隠し本棚扉がある自宅を建築し、その自宅を舞台にした「そして誰かがいなくなる」(中央公論新社 1980円)を書いたことを思い出しながら楽しく読んだ。
「ライアーハウスの殺人」は、本格推理の王道の展開も盛りだくさんで、サービス精神に満ちた作品だが、油断してはならない。終盤で食らわされたどんでん返しには、心底驚いた。自分の思い込みが見事にひっくり返り、思わず声が出てしまうほどの衝撃はなかなか体験できない。色んなミステリー小説を読んできている中、2、3年に一度味わえるかどうかの驚愕だった。
織守さんの大胆な発想力とロジックの精密さが融合した一級のミステリーとなっている。
ミステリー作家の今村昌弘さん、呉勝浩さんと一緒に織守さんを自宅に招いた夜、このような作品を作り上げることができる頭脳がそこで発揮されなかったことに安堵した。