五木寛之 流されゆく日々

1932年福岡県生まれ。早稲田大学露文科中退。66年「さらばモスクワ愚連隊」で第6回小説現代新人賞、67年「蒼ざめた馬を見よ」で第56回直木賞。76年「青春の門 筑豊篇」ほかで第10回吉川英治文学賞を受賞。2002年には第50回菊池寛賞を受賞。NHKラジオ深夜便「歌の旅人」、BSフジ「五木寛之『風のcafe』」放送中。日刊ゲンダイ本紙連載「流されゆく日々」はギネス記録を更新中で、16年9月5日に連載10000回を迎えた。著書に「風の王国」「大河の一滴」「他力」ほか、「親鸞」三部作など多数。

連載10102回 アメリカ・アズ・No1 <4>

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(昨日のつづき)
 フランスで国民戦線の動きが注目されている。まさか、とは思うがルペンがフランスのリーダーになる可能性はゼロではない。いま世界は常識を引っくり返す出来事の連続だ。
 このコラムで何度も書いたが、このところフランスは激変しているといっていい。デモ隊が警官隊に守られて行進し、デモの参加者から機動隊員が花束を受ける。それを拍手をもって迎える市民たち。
 国家と国民が一体となる昂揚感が、そこには熱く流れている。その感覚は1968年のパリ騒乱以来、人びとがながくあじわったことのない甘美なものであったにちがいない。
 ドゴールのパリ入城を歓呼をもって迎えた市民たちは、その一体感を忘れていないだろう。
 大いなるものに包まれ、自分がその一員であることを感じるのは、たとえようもない充実感をおぼえることなのだ。
 かつて私たちは昭和の初期にそれを身をもってあじわった。出征兵士を送るとき、ラジオから流れる大本営発表のニュースに一喜一憂するとき、いつもそのことに感動したものである。歴史の変り目にはしばしばそのような昂揚感が訪れるものだ。
 トランプに対する風当りが強くなったことを報道するマスコミは、アメリカのいたるところでトランプと一体感を覚えている民衆のことをほとんど無視している。いま新しいナショナリズムの時代が訪れてこようとしている。問題はそれが国対国の対立からきているのではないことだ。
 かつてハンチントンの『文明の衝突』論は、話題になりはしたが嘲笑する向きも多かった。
 ことに宗教の衝突という見方は、ほとんど相手にされなかったように思う。
 しかし、いまあらためて最近の世相を見ていると、イスラム教とキリスト教文明の対立という視点は、どうしても浮かび上ってくる主題だろう。
 二つの宗教の対立というより、信仰が生き方を支える熱度の差が対立を生むのかもしれない。神のためなら死んでもいい、と決意する若者が、イスラム教以外にはたして存在するのか。
 問題は雇用や貿易赤字の二点だけではあるまい。ちがう文明を受け入れるかどうかの葛藤なのだ。アメリカは多様な文明を活用することで世界のNo1になった大国である。移民の国であり、本来的に合衆国なのである。
(この項つづく)
――協力・文芸企画

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