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五木寛之 流されゆく日々

1932年福岡県生まれ。早稲田大学露文科中退。66年「さらばモスクワ愚連隊」で第6回小説現代新人賞、67年「蒼ざめた馬を見よ」で第56回直木賞。76年「青春の門 筑豊篇」ほかで第10回吉川英治文学賞を受賞。2002年には第50回菊池寛賞を受賞。NHKラジオ深夜便「歌の旅人」、BSフジ「五木寛之『風のcafe』」放送中。日刊ゲンダイ本紙連載「流されゆく日々」はギネス記録を更新中で、16年9月5日に連載10000回を迎えた。著書に「風の王国」「大河の一滴」「他力」ほか、「親鸞」三部作など多数。

連載10101回 アメリカ・アズ・No1 <3>

(昨日のつづき)
 カシアス・クレイは、のちにモハメッド・アリと改名した。自分がアフリカから強制連行されてきた奴隷の末裔であると自覚して、あたえられた名前を捨て、そのルーツに関係のある名前を選び取ったのだ。
 もともとアメリカは移民の国である。合衆国というのは、多民族国家であることをいう。
 イスラム圏7カ国の国民の入国を禁止するというのは、合衆国の名にふさわしくない行為だろう。
 以前、ニューヨークへ行ったとき、入国の窓口で、突然、連行されて建物の裏の小部屋に連れていかれ、長時間にわたって訊問されたことがあった。
 私のパスポートに、何度もイランへ入国したスタンプが押してあったからかもしれない。
 アメリカ合衆国が戦後、世界のNo1になったのは、ヨーロッパをはじめ世界の各地から流入したカルチュアと才能によってである。
 科学者もしかり、思想家、哲学者もしかり、芸術、スポーツの分野においてしかり。政治、経済の分野においてしかり。
 トランプは聖書に手をおいて宣誓したが、イエス、ともキリストとも言わない。ゴッドという言葉を使うのは、多文化、多宗教の国であることへの配慮からだろう。
 ひるがえってわがニッポン国を確かめてみると、渡来系、すなわち列島に移住してきた人々が数限りなく存在する。最澄も、法然もその血を引くといわれているし、かつてはそのことはアドバンテージですらあった。
 ロシアの国民詩人、プーシキンの先祖は東方からきた異邦人だった。ロマノフ王朝やエカチェリーナは、ドイツ系である。
 そもそもこの日本列島に人がやってきたのは、中央アジア、シベリア、バイカル湖のあたりからだといわれている。
 鴨長明が熱中した琵琶は、当時のエレキみたいな外来の楽器だった。中国から九州、そして上方へと伝えられていく。当時はピパと呼んだらしい。新奇な外来楽器である。やがてそれを弾じながら物語をする遊芸人が生まれてくる。
 この国もかつては合衆国だった。世界のすべての文明は、その混交から生まれる。
 満州国を建てたとき、言葉だけにせよ「五族協和」というスローガンが若者たちの夢をかき立てた。漢人、満人、蒙古人、ロシア人、そして日本人が合衆国を形成する。偽りのスローガンだったとしても、そこには満蒙合衆国のプランがあったのだ。
(この項つづく)
――協力・文芸企画

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