老舗魚屋に郷土料理 青森・津軽地方“うまいもん”をめぐる

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神経締めが最高の味を実現

 2017年、初青森を経験した記者のこの地への強烈な印象は「ブレない人」が多い。一度会えば、何度でも彼らに会いたくなる。さぁ青森へ飛ぼう。

「塩谷魚店」は創業84年になる鮮魚の卸・小売店。後を継ぐ塩谷孝さん(50)は、40歳過ぎあたりから「ここらでは多少知られてるけど、全国さ行ったらどんなものか」という気持ちが湧いてきた。始めたのが「神経締め」だ。魚の神経を締め、死後硬直を遅らせる。挑戦と失敗を繰り返し、他地域とは違う、塩谷さん流のやり方を確立した。

「『神経締めしたら魚がおいしくなる』のではなく、魚をおいしく食べる手法の一つに神経締めがある」(塩谷さん)

 締めるのにふさわしい強いエネルギーを残した魚でなければ駄目。良い状態で取れる漁師が第1走者、適切に締められる魚屋が第2走者、ベストを見極め調理できる料理人が第3走者――。これらの走者がそろってこそ、消費者においしい魚を届けられる。「芯のブレない」漁師、鮮魚卸・小売店、料理人ら二十数人で「北日本神経〆師会」を立ち上げた。「〆」には、「職人や技術者」との思いを込めている。

「漁獲高減少の今、次の世代に継がせるには、魚に付加価値をつけ、魚価を上げなくてはならない。自分たちの浜を変えようと腹を決めた仲間たちです」

 そんな塩谷さんのもとで、恐れ多くも神経締めに挑戦。魚種や食べ方によって神経締めに至る手技は違うそうだが、「脳死↓水に魚を放して血抜き↓神経締め」が一般的。

「脳死は残酷に見えるかもしれないが、魚をバタバタさせて殺すよりストレスをかけない」

 試行錯誤の末に編み出した特注品のワイヤを頭側の神経から入れると魚が一瞬ビクッと動く。そのまま神経に沿ってワイヤを進ませ、尾の方の“到達点”にたどり着いたら、ワイヤを前後に動かす。素手の温度も魚にストレスをかけるので、氷水で冷やし、素早くやるのが基本だ。

 魚種すらわかっていない魚オンチの者には、神経を入れる場所を探り当てるのが非常に困難。塩谷さんの指し示す辺りに入れたが、ビクッとしない。塩谷さんが代わりにすると、魚がビクッ。ワイヤを進めようとすると、神経からそれる。

 塩谷さんの手を借りて、というか、ほぼ塩谷さんにやっていただき、神経締め終了。その1匹のカワハギをさばいてもらうと、心臓がピクピク動いている。身が真っ白!

「この美しさが神経締めならでは」

 塩谷さんが神経締めした魚を翌日、「〆師会」のメンバー、滝沢英哲さん(写真円内)がシェフを務めるイタリア料理店「リンチェ」で調理してもらった。第1走者から第2、第3走者への連携を身をもって体験。味の素晴らしさは食べないとわからない。ぜひ自らの舌で。

 滝沢さんによれば「ゴマサバやタラなどは自然死すると身が緩くベターッとなる。ストレスフリーの神経締めにすると身の弾力が残るんです」。

 さまざまな魚種を締め、データを採取。どれだけ寝かせれば一番おいしいか。ワインと同じで熟成にもピークがある。それを一つ一つ記録に残した。アニサキスなど寄生虫がいる魚種はその対策も必須だが、味は落とさず安全性は高い調理法も「研究」を重ねて見いだした。

「最初は神経締めを漁師さんに全く受け入れてもらえなかった」と、塩谷さんと滝沢さんは笑う。通った浜にキーマンの漁師がいた。拒否感を示す漁師との橋渡しをしてくれた。「俺たちのためにやってくれてんだろ!」と怒ってくれた。彼は、「〆師会」がいよいよ本格始動という時、海に落ちて亡くなった。

「〆師会の永久欠番。彼の気持ちもずっと伝えていく」

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