高嶋哲夫氏「首都感染」は予言の書ではなく予測できたこと

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 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。国民の不安を象徴するかのように、マンゾーニの「いいなづけ」やカミュの「ペスト」といった古今東西の疫病を描いた古典などが売れている。中でも注目を集めているのが副題にパンデミックとついた「首都感染」(講談社)だ。今年に入って6万4000部を増刷。先見の明があった著者の高嶋哲夫氏は、世界レベルの対策マニュアルの必要性を訴える。

 ◇  ◇  ◇

  ――「首都感染」は10年前に書かれたものですが、世間では「予言の書」といわれるほど今回のコロナ禍に内容が酷似しています。

 10年前に書いた小説が改めて注目されているのはうれしいですが、発売されたときに政府関係者をはじめ、多くの人に読まれていたらなぁ、という気持ちもあります。皆が感染について理解していれば協力的であっただろうし、もっと早くに手が打てたんじゃないかと思いますね。

  ――小説の着想はどこから得たんですか?

 20年前に書いた石油生成菌をめぐる「ペトロバグ」に遡ります。執筆の際に読んだ資料で、はじめて「感染」や、「パンデミック」という言葉を知りました。バクテリアなどが突然発生して感染していくことが起こり得ると――。それで、もし世界的に感染が広がったらどうなるかということを考えたいと思ったんです。ペストやスペイン風邪など過去の事例からも、いずれパンデミックが起こることは十分わかっていました。しかも、交通事情も人の行き来も中世とは大きく異なる現在では、もっとひどいことが起こるだろうと想像がつきましたね。

  ――小説では、ウイルスの国内侵入を阻止するべく対策本部を設置。入国制限や帰国者の検疫と管理、買い占め防止の通達、イベント自粛などの対策、遺体処理までがいち早く描かれていて、まるで現実が小説の世界をなぞっているかのようです。

 感染とはどういうものかという知識と現在の科学とを組み合わせて分析し、さらに過去の事例を見れば起こり得ることは考えられるんです。僕はそれをもとに想像をふくらませたのであって、予言の書でも何でもない。僕に言わせれば当たり前で、わかっていたことです。その意味では感染対策もおのずと決まってくるんですよ。

  ――今回の日本の対策をどう評価しますか。

 感染者が出たダイヤモンド・プリンセス号の対処に関しては、もう少し合理的な方法があったのではと思います。初めての経験ですからアタフタするのは仕方がないことではありますが、準備不足だったことは否めません。政府がきちんと情報なりメッセージを伝えていれば、少なくとも買い占めなどのパニックは防げたんじゃないか。現在、国内の感染者は約2000人、死者は約70人(4月1日現在)と増加しつつありますが、世界と比べると数字は小さい。一時、ある程度封じ込めに成功とみる向きもありましたが、今は言えません。

■WHOの対策はデタラメ

  ――WHO(世界保健機関)がパンデミック宣言をしたのは3月11日でした。

 はっきり言ってパンデミック宣言は遅すぎました。そしてWHOの対応はある意味、デタラメだった。感染症が世界的に広がったときに大事なのは往来のストップと、情報です。各国の“正しい情報”が必要なんです。中国への忖度がひどすぎたという見方に賛同します。結果、世界の感染者はあっという間に85万人(4月1日現在)ですよ。国を超えた権威を持っているWHOが、もっと主導的な行動と言動をとり、国同士を連携させてほしかったですね。WHOなりアメリカのCDC(疫病対策センター)がまとめ役となって早急にこの感染を抑えないと、我々がこれまで経験をしたことのないような世界恐慌に近づいていくでしょう。それほど、今の状況はよくないですね。

  ――世界恐慌になってもおかしくない、と。

 グローバル社会となった現在は、世界のどこかがおかしくなると、すべてに広がっていくという時代です。全世界が一体となって立ち向かわないと、どうにもならないんですよ。すでに起こりつつありますが、たとえば飲食店への来店者が減り、従業員の給料がカットされる。パンデミックが終息したとしても、この後に待っているのは経済的困難です。倒産、そして経済問題に絡んだ自殺者が増えるでしょう。複合的なものが交じり合って、連鎖的に悪いことが起こっていく。残念なことですけど。

今の状態で長期封鎖になれば日本はガタガタに崩れる

  ――危機感への慣れからか都市部などでは自粛ムードが緩み、一時よりも出歩く人が増えた時期がありました。

 今の日本人をみていると、騒ぎすぎである一方で認識の甘さを感じますね。デマも含め、買い占めやマスクをしていないということだけでトラブルに発展する騒ぎすぎの面と、感染者や死者数の少なさからくる楽観視。3連休の街の賑わいなどはそれを象徴していました。そもそも政府の入国規制も遅かった。今後感染者が10倍、100倍に膨らむ怖さは十分にあります。ダイヤモンド・プリンセス号に乗っていた1人の感染者から広がったように、感染力の強い人が1人、どこかに紛れ込んだら終わり。オーバーシュート(感染爆発)の可能性は依然ありますよ。

■世界レベルの対策マニュアルと助け合う仕組みづくりを

  ――3月25日には、小池都知事が「感染爆発の重大局面」と発表。小説に描かれたのと同じく「首都封鎖」の現実味が増してきました。

 小説では218人の死者が出た時点で首都封鎖を決定。多摩川、環八通り、荒川のラインで東京を封鎖し、3カ月にわたって人や物資の移動を止めるというものでした。現実社会ではイタリアやフランスなど、事実上、都市封鎖されていますが、いざ東京でやろうとすると問題は山積みです。政治や経済などのあらゆる機能、そして人口が東京に集中している。それを支える力が地方にあるか、ということです。さらに封鎖を解いたあと、元の社会に戻すのに莫大な時間と金もかかる。今の状態で長期封鎖になれば日本はガタガタに崩れるでしょう。小説「首都崩壊」にも書いたのですが、僕の持論・道州制を提案したいですね。

  ――道州制とは、つまり日本の形を変えるということですか。

 この先、東京直下型地震や南海トラフ地震は、絶対に起こります。今回はまだ「さて、どうしよう」と考える時間がありますが、地震はある日突然来て、準備する間がありません。首都を移転し、他の機能も人口と共に地方に均等に分散させておけば、万一のとき地方から東京を支援することができます。地震などで太平洋側がダメになっても、他の地域で経済が回れば、助かる。道州制は単なる国内問題でなく、地震による日本発世界恐慌を招かないための危機回避策でもあるんです。事前のシミュレーションがさまざまな被害を軽減するわけですから、ぜひ検討してほしい。

  ――コロナの終息時期をどのように見ていますか。

 日本ではこのままいくと、年内は尾を引くでしょうね。世界情勢は一体どうなることか予測もつきません。特にアフリカ、南米などこれから冬を迎える南半球が心配です。医療、検疫体制が十分でない国では試練が増すでしょう。新たな難民問題も懸念されます。とにかく早く終息させて、落ち着いた国から窮地に陥っている国を助けていくことです。これを教訓に、日本でも世界レベルでも対策マニュアルをつくり、助け合う仕組みづくりが必要ですね。

 (聞き手=原田かずこ/日刊ゲンダイ)

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◆「首都感染」(講談社) 20××年、サッカーW杯が開催された中国で、致死率60%の強毒性インフルエンザが発生。中国政府は隠蔽を図るが、サポーターの帰国と共に世界に拡大。日本政府は対策本部を設置するも、感染者が都内に発生し、死者が200人超えに。感染拡大防止のため、ついに首都封鎖が始まる。

▽たかしま・てつお 1949年、岡山県生まれ。慶応大大学院修士課程修了。日本原子力研究所研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。79年、日本原子力学会技術賞受賞。著書に「M8」「TSUNAMI 津波」「富士山噴火」など多数。今月8日には、世界の難民問題を描いた「紅い砂」(幻冬舎)刊行予定。

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