恵比寿「たつや 駅前店」では80歳くらいの女子が生ビールのジョッキを両手で抱えて飲んでいる
昭和の面影を残す街を歩き、酒場や食堂を訪ねていると、どうしても東京の東側が中心になる。
おかげさまでこの連載も100回を数えたから、そろそろ西側に足を向けてもいいかもしれない。
そんなわけで今回は恵比寿。恵比寿という地名は100年以上前に、この地にエビスビールの工場があったことに由来する。街の様相が劇的に変わったのがビール工場跡地にガーデンプレイスができてから。1994年のことだ。
その後、代官山周辺も大きく変わり、恵比寿を中心とした一帯がオシャレなファッションタウンに変貌する。それまでの恵比寿はビアステーションというビアホールくらいしかなく、そこにビールを飲みに行く以外、足を向けることはほとんどなかった。今からは想像もつかないほど地味な街だった。当時の若者たちにとって、恵比寿は六本木に行くための乗換駅の街でしかなかったが、今では住みたい街1、2位を争っているらしい。
そんな大変貌を遂げた恵比寿にも、昭和の匂いがプンプンする一角がある。西口の恵比寿銀座裏あたりは昔の恵比寿を思い起こさせるアタシの好きなエリアだ。その一角にアタシにとっての恵比寿の象徴「たつや 駅前店」がある。今年で創業50年。朝8時から夜11時までの通し営業は今も変わらない。アタシがガーデンプレイスに向かう坂の途中に事務所を構えた30年前、仕事が一段落すると、朝だろうが昼だろうがたつやで一杯やっていた。
変形のコの字カウンターが外から見え、酔客で賑わっていた。いつ行っても満杯で、立ち去ろうとすると入り口横に立っている先代の親方が「奥が空いてるよ」と手招きしてくれたものだった。