著者のコラム一覧
大竹聡ライター

1963年、東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、出版社、広告代理店、編集プロダクションなどを経てフリーに。2002年には仲間と共にミニコミ誌「酒とつまみ」を創刊した。主な著書に「酒呑まれ」「ずぶ六の四季」「レモンサワー」「五〇年酒場へ行こう」「最高の日本酒」「多摩川飲み下り」「酒場とコロナ」など。酒、酒場にまつわるエッセイ、レポート、小説などを執筆。月刊誌「あまから手帖」にて関西のバーについてのエッセイ「クロージング・タイム」を、マネーポストWEBにて「大竹聡の昼酒御免!」を連載中。

(5)寿司屋で酒を飲む

公開日: 更新日:

 兵庫県は西明石駅にほど近い「菊水鮓西店」。ここではご主人にお任せして、旬のネタを中心に握っていただくことにしている。

 10年前の今頃、初めて訪ねたとき、ツバスというネタの握りを食べた。これはブリの幼魚で、脂がしつこくなく、甘く上品で、私はブリよりうまいと思った。ほかに、塩とスダチで食べるタイや、塩山椒をあしらったものとタレと岩海苔をあしらった2貫を楽しませるアナゴも格別だった。私はそのうまさに驚くばかりで言葉も出なかったが、ご主人が薦めてくれた能登の銘酒「宗玄」も良かった。注ぐ猪口は、滋賀県の陶芸家、神﨑継春氏の作である。

 植物灰を主原料とする灰釉という釉薬で仕上げた陶器で、底の中央部分は丸く緑色に染まっている。そこに酒を注ぐと緑の中で酒を飲んでいるようで、実に爽快な気分に浸れる。あまりにきれいなので、私は、明石からの帰りに滋賀に立ち寄り、神崎氏の作品を買って帰ったものだった。

 毎年、ツバスが獲れる秋になると、明石の寿司屋の美しいカウンターを思い出す。年内に足を運ぶことができるだろうかと算段するだけで、心が浮き立つ。世の中にうまいものはたくさんあるけれど、私にとって、気に入った寿司屋で飲む酒ほど楽しみなものはない。

【連載】大竹聡 大酒の一滴

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