相互監視、言論私刑 社会全体が「隣組化」の恐ろしさ
緊急事態宣言の期限である5月6日まで1週間だが、連休明けに解除できるとは、もはや誰も思っていない。新型コロナ感染拡大の抑え込みは、まったく先の展望が見えないからだ。安倍首相肝いりの「アベノマスク2枚」でさえ、まだ届かない国民が大多数なのである。政府が無能だと、自粛生活が長期化することを覚悟しておかなければならない。そこで気になるのは、浮足立つ国民の間で、相互監視の風潮が目立ってきていることだ。
全国知事会は29日、国への緊急提言を議論するテレビ会議を開催。緊急事態宣言の一律延長を求めると同時に、休業指示に応じない事業者を対象に、罰則規定を設ける法改正などで対策を強化することも要望した。新型コロナ特措法に基づき、知事は休業要請に応じない事業者の店名公表、指示ができるが、罰則はない。休業要請に応じない一部の店、とりわけパチンコ店には批判が集中している。営業を続けているパチンコ店を公表する自治体も出てきた。
問題は、自粛要請に応じない場合に厳しい罰則を求める声が、市民の間からも上がっていることだ。営業中のパチンコ店や飲食店、さらには他県ナンバーの車に自粛を迫る張り紙をする人々も出てきた。営業を続ける店に対し、脅迫めいた言動もあるという。
そういう人々を指して、「自粛警察」なんて言葉も生まれているが、そうやって彼らが“取り締まり”に出歩くことは問題ないのか。正義だから許されるとでもいうのだろうか。
■抜け駆けを許さない処罰感情
「休業補償がない自粛要請では、従業員に支払う給料や事業継続のために営業を続けざるを得ない店が出てくるのは当然です。憲法29条に定められた財産権でも、『私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる』とあります。感染症対策であっても、それなりの補償がなければ、営業自粛を強制することは難しい。基本的人権を尊重するのが成熟した民主主義社会だからです。自分は自粛要請に従って苦しい生活を送っているのに、楽しそうにしている人の抜け駆けが許せないという処罰感情から、私権制限を市民の側が求める風潮は危険極まりない。関東大震災で一般市民による自警団が朝鮮人虐殺に走ったのと同じようなことが起こりかねません」(立正大名誉教授の金子勝氏=憲法)
休業補償どころか、パチンコ業種は政府系金融機関、信用保証協会の融資や保証の対象からも除外されていた。24日に経産省がようやく、セーフティーネット保証の適用対象にしたが、適用は5月上旬からだ。店を今閉じたら、すぐに潰れるホールも出てくる。
これはキャバクラや性風俗店も同じで、当初は子どもの休校に伴う休業に対する保護者への支援金の支給対象からも外されていた。
自身も政府系金融の無担保・無利子融資を断られたという精神科医の和田秀樹氏はこう言った。
「自粛要請に従わないパチンコ店を公表するなんて、権力者のパフォーマンスでしかない。やむにやまれず営業を続けている店を攻撃する前に、潰れそうな店を救おうとしない政府に文句を言うべきです。仕事をしなければ明日からの生活に行き詰まる人がいるということが、政治家や官僚、学者など、経済的な痛みを感じたことがないような人たちには想像もできないのでしょう。自分たちが普段行かないような店は、潰れてくれて構わないと言っているようにしか思えません」
ミュージシャンの星野源の動画に便乗した安倍は、<友達と会えない。飲み会もできない>というメッセージで、自粛生活を余儀なくされた国民に寄り添うフリをしたが、そういう次元の話ではない。庶民は生活がかかっている。お仲間との宴会ができないことを嘆いているだけの首相とは違うのだ。