(49)悩んだ末に母の車を手放す決断をした…単なる道具ではなかった

公開日: 更新日:

 母が施設に入って1年後、悩んだ末、残っていた車を手放した。父が亡くなり、母が施設に入ってからも、無人となった実家の駐車場にはずっとその車が残されていた。

 帰省するたびにバッテリーが上がっており、エンジンをかけるのに苦労したが、それでも私は、母の施設と実家を往復する足としてこの車を使い続けていた。公共交通機関の選択肢が限られる田舎では、車は生活に欠かせない存在だからだ。

 車は、母にとって単なる道具ではなかった。農家の働き手として生まれ、幼い頃から家の手伝いばかりで学歴も職歴もなかった母は、自動車運転免許を頼りにその後の人生を切り開いた。車での仕事をきっかけに、父と知り合ったという。

 私が子どもの頃は、弁当店の配達の仕事に車を使い、習い事の送迎も欠かさずしてくれた。母にとって運転とは、自由と自立を象徴するものだったのだと思う。

 廃車の手続きは、母が長年懇意にしていた町の整備会社にお願いした。若く朗らかなその社長とは初対面だったが、あっという間に手続きを済ませてくれた。「お母さんには本当にお世話になっていましたから」と、費用は必要ないと言われた。母が日々の暮らしのなかで信頼を積み重ねてきた結果だ。私は感謝の気持ちを伝えるだけで精いっぱいだった。

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース佐々木朗希の快進撃に暗雲…正捕手スミスが離脱、大谷が“何度も首を振った”ラッシングが代役に

  2. 2

    松村北斗&目黒蓮の"2強"を崩すSTARTO社の若手演技派は? 男性アイドル戦国時代のカオス

  3. 3

    不倫と嘘が止まらない高市内閣の人格と運命…エロ文科相が「道徳心」を説くお笑い

  4. 4

    皇室典範改正のタイミングで…愛子さまに「海外留学」説が浮上

  5. 5

    森香澄はピアニストを夢見て練習に打ち込むも、1浪して東京女子大現代教養学部へ…高校は都立新宿

  1. 6

    ドジャース“真のエース”山本由伸が誇る「数字に表れない価値」…休んでばかりの大物投手と段違い

  2. 7

    渋野日向子に「全米女子プロ」逆転出場の道…勝みなみと3年連続タッグでツアー唯一のダブルス戦V狙う

  3. 8

    初G7で高市外交ドッチラケ…「国際法遵守が不可欠」力説もトランプ米国のイラン攻撃にはダンマリの矛盾

  4. 9

    テレビ朝日が「宝の持ち腐れ」…魅力ある2人の女子アナ松岡朱里と三谷紬をもっと出してよ!

  5. 10

    高市官邸の「SNS戦略」は逆効果…内閣広報官の物議投稿で中傷動画疑惑かき消すどころか“火に油”