「単身リスク」山田昌弘氏

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「単身リスク」山田昌弘著

「『パラサイト・シングル』について書いてから25年以上たち、家族をつくらなかった単身者が高齢化する社会に向かっています。にもかかわらず、多くの人が普通に結婚して離婚せず、単身ではない人生を送れるという幻想の中にいる。しかし今まで通りのやり方では、人生100年時代を乗り切れません」

 失業、病気、貧困、介護など人生で起こりうる試練やリスクは、人生が長くなったことで格段に大きくなり、単身で生きる確率も高くなった。けれど日本の社会保障は、正社員の男性とその扶養家族という家族単位で設計されたままで、会社や家族の庇護を受けられる人も少数だ。セーフティーネットが脆弱な単身世帯が、大量発生する社会は目前なのだ。

 本書は、危うい日本社会の現状を解き明かしながら、起こりうるリスクの数々を整理しつつ、長い人生を幸せに生きるために何が必要なのか、その指針を提言したもの。

「『リスク社会』をいかに生き抜くか」「『自己責任社会』をいかに超えるか」などの5章構成で、社会と個人の両面から人生100年時代のあり方を問う。

「ここ20年、困難な状況にある人を『自己責任』という言葉で非難する言動が非常に増えました。仕事の失敗も、離婚や育児や介護もすべて『自己責任』にする社会の在り方が、難婚化・少子化を招いたともいえます。俺は大丈夫と思っている人でも、今後は誰にとっても単身で生きることが他人事ではないと知ってほしい」

 著者は人生100年時代に想定されるリスクとして、①介護②家族や親しい友人がいなくなる③家族に頼られる④老いた子を見放せない⑤収入と支出のバランス⑥生きがいの6つを挙げている。

 老後2000万円問題の話題などで、「収入と支出のバランス」については意識している人も多い。長期化する介護や、退職や離別・死別などはすでに経験し始めている人もいるだろう。しかし③や④などの血縁関係が理由で経済的に、または家事・育児・介護の担い手として再び負担を背負う可能性は、ともすれば忘れられがちだ。

「愛情があるなら家族を背負えという依存システムでは、単身者はもちろん、家族でいること、家族になること自体がリスクになりかねません。一方、海外に目を向ければたとえばドイツでは在宅介護を家族や友人が行う場合、介護する人に対して介護保険制度から現金給付が行われ、またスウェーデンでは育児休業中の所得も80%保証されます。こうした事例を見れば、家族ありきの支援から個人単位の支援へと移行した社会基盤をつくることが必須なのがわかります」

 すぐには変わらない社会の中で、個人として「人生後半で生きがいを失うリスク」を減らすためにできることは何か。

「成功したにせよ、失敗したにせよ、これまでの延長線上で生きるには100年は長すぎます。今までの時間は前世だと思って、新しく生まれ直すつもりで人生を仕切り直すことを提案したい。金銭や地位など、世間から見た幸せや常識を追求しなくていい。65歳からは人生の第2ステージだと捉えて、好きな仲間とつながり、小さな喜びをたどりながら『自分の幸せ』を見つける挑戦を始めてみてください」 (朝日新聞出版 990円)

▽山田昌弘(やまだ・まさひろ) 1957年東京生まれ。中央大学文学部教授。専門は家族社会学。「パラサイト・シングルの時代」「結婚不要社会」「新型格差社会」「パラサイト難婚社会」「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」など著書多数。

【連載】著者インタビュー

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