「片道の人生」ジェームス三木著

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 押しも押されもしない脚本家の大御所。NHKの朝の連ドラ「澪つくし」や大河ドラマ「独眼竜政宗」をはじめ、大ヒット作も数多いが、物書き人生のスタートは遅かった。起伏に富んだ半生を描いた初の自伝。

 1935年、旧満州の奉天生まれ。かの地で敗戦の日を迎え、天皇陛下の「人間宣言」に「魂が飛ぶ」ほどの衝撃を受けた。一家4人で大阪へ引き揚げ、初めて祖国の地を踏んだ。勉強しなくても成績がよく、教わるよりも独習タイプ。中学、高校時代は演劇部で活躍し、自分には名優の素質があると思い込んで俳優座養成所に入所した。

 バイトを転々としながら食うや食わずの俳優修業。しかし、才能豊かな面々の陰に隠れて芽が出ない。自信喪失。挫折を味わった。キャバレーのボーイのアルバイトをきっかけに、今度は歌手を目指す。ナイトクラブの専属歌手、テイチク専属歌手として10年。30歳を過ぎたころ、演劇のシナリオ学校に入った。「演じる」がだめなら、「書く」という道がある。自分の中で急速に目覚めるものがあった。

 初めてシナリオの新人コンクールに応募した作品「アダムの星」は高く評価され、映画化の話まで持ちあがった。才能に加えて、満州での体験、じたばた生きた青春時代が、ドラマを生み出す豊かな土壌をつくっていた。

 次々と仕事に恵まれたが、思わぬ落とし穴も。長年連れ添った妻による暴露本「仮面夫婦」が世に出ると、女性の敵、色魔とこきおろされ、一時は仕事を干された。だが、才能ある脚本家はよみがえった。平成12年、64歳のとき、27歳年下の元国際線スチュワーデスと再婚。ジェームス三木が生きた80余年は、そのままドラマになりそうだ。(新日本出版社 1900円)

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