【チェコ文学】 突如、残虐な役柄に選抜される読者

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 舞台は1950年代、秘密警察が跳梁跋扈し、隣人さえもが不信の時代。チェコの都市ブルノで物語は繰り広げられる。

 第1部では、熱い理想を抱くも俗悪な依頼に応えてきた建築家の男と、不倫調査専門の私立探偵の男が主軸である。建築家の男は、家族思いであるがゆえに脅迫と陰謀にさらされ、心を乱す。悪夢にもさいなまれる。一方、私立探偵の男は、ヨガを取り入れた隠し撮り法を確立し、狙った獲物は逃さない。不倫の結合写真を密かに収集しているゲスな男だ。異なる背景と素性の男たちが、ひとりの男の失踪でつながっていく。

 第2部では、第1部で散在していたピースがカチッとはまる。ただし、はまるのはごく一部。さらに、語り手が「わたし」から「あなた」に。突如、読者はこの物語に巻き込まれていくのだ。残虐な役柄に急きょ抜擢され、「あなた」はさぞや戸惑うことだろう。しかし、真実を知りたい欲求に駆られて、ページを手繰る手を止められないはずだ。

 第3部は驚愕の結末。慧眼の読者はすでに気づいていたかもしれないが、ある人物が登場する。

 外国文学に親しみがない人は、やや難航するかもしれないが、50年代は間違いなく恐怖と狂気の時代だったと分かる小説である。

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「堆塵館」
エドワード・ケアリー著 東京創元社 3000円+税

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