【社会派小説】 1970年代の韓国が舞台

公開日: 更新日:

 国が、あるいは都市が猛スピードで経済成長を遂げるとき、その陰には必ず犠牲者がいる。世界中のどの国でも、いつの時代でも。といっても、そう昔の話ではない。1970年代の韓国の話だ。

 童話のようなタイトルとは裏腹に、中身は骨太の社会派小説である。登場するのは、障がいのある父親とその家族だ。一家は貧困と不遇に苦しむが、諦観も漂う。働けど働けど低賃金で、生活は一向に変わらない。生活費はもはや「生存費」である。政府とごく一部の富裕層に搾取され、尊厳を奪われている。子供たちは食物連鎖をこう解釈する。

「植物、動物、肉食動物、大型肉食動物の四段階の生態系。僕らはいちばん下だってことを知ってるよ。僕らにはとって食う相手がいない。だけど僕らの上には、僕らをとって食おうとしているのが三段階もいる」

 一方、富裕層の青年も登場。搾取する側の出自に疑問を抱き、労働運動に興味をもち始める。バラバラに見えた物語が、ひとつの答えにつながっていく。差別と格差が激しく、反対意見を述べることができない社会は、いびつで災いが多いという答えに。昔話ではない。今もなお、全世界で起きている現実を描いている。

★先週のX本はコレでした

「フンボルトの冒険」
アンドレア・ウルフ著
NHK出版 2900円+税

【連載】書名のない書評「ゲンダイX本」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    もしやり直せるなら、入学しない…暴力に翻弄されたPL学園野球部の事実上の廃部状態に思うこと

  2. 2

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  3. 3

    永野芽郁は疑惑晴れずも日曜劇場「キャスター」降板回避か…田中圭・妻の出方次第という見方も

  4. 4

    巨人阿部監督が見切り発車で田中将大に「ローテ当確」出した本当の理由とは???

  5. 5

    「高島屋」の営業利益が過去最高を更新…百貨店衰退期に“独り勝ち”が続く背景

  1. 6

    かつて控えだった同級生は、わずか27歳でなぜPL学園監督になれたのか

  2. 7

    JLPGA専務理事内定が人知れず“降格”に急転!背景に“不適切発言”疑惑と見え隠れする隠蔽体質

  3. 8

    「俳優座」の精神を反故にした無茶苦茶な日本の文化行政

  4. 9

    (72)寅さんをやり込めた、とっておきの「博さん語録」

  5. 10

    第3の男?イケメン俳優が永野芽郁の"不倫記事"をリポストして物議…終わらない騒動