清潔すぎる環境が子供の健康に逆効果

公開日: 更新日:

 我が子にはバイ菌ひとつ寄せ付けずに育てたいと考えるのが親心だが、近年では清潔すぎる環境が子供の健康に逆効果であることが分かってきている。ブレット・フィンレー、マリー=クレア・アリエッタ著、熊谷玲美訳「『きたない子育て』はいいことだらけ!」(プレジデント社 1700円+税)では、成育過程で過度な除菌や消毒を行うと、子供たちの生涯の健康に悪影響を及ぼすと警鐘を鳴らしている。

 昨今の若い親たちは子供を屋外で自由に遊ばせることを嫌がる傾向にある。汚いものを口に入れたり、長時間汚れた状態でいると病気になると考えているためだ。人間は、何世代もかけて環境の中の有害な病原体を避け、世界をきれいにしてきた。衛生規範に従うことは、子供の死亡率の著しい減少など、利点があることも確かめられている。

 しかし現代では、清潔すぎることは健康上の効果と必ずしも一致していない。その鍵を握るのが、私たちの体にすみついている微生物である「マイクロバイオータ」だ。

 幼い子供というものは、躊躇なく何でもなめまくる。そのため感染症にかかるリスクも大人より高いが、この行動はさまざまな微生物に対応し、免疫系を自ら訓練することに役立っている。病原菌と出合った場合は病気という形で反応したうえで記憶し、次に同じ病原菌がやってきても防御できる。一方、微生物の大部分を占める無害な種類に出合ったときには、これを受け入れてマイクロバイオータの種類を豊かにする。

 子供を清潔すぎる環境で育て、微生物との訓練の機会を減らしてしまうと、子供は免疫系が未成熟なまま成長することとなり、病原菌と戦う方法や無害な微生物への対処方法が身につかない。すると、免疫系がその都度過剰反応を起こし、さまざまな臓器での炎症反応の引き金となる。これが、喘息などのアレルギー疾患の原因になる他、マイクロバイオータの未発達が肥満うつ病、ADHD(注意欠陥・多動性障害)などのリスク増にもつながる可能性があるという。哺乳瓶の殺菌洗浄は必要ない、除菌用ハンドジェル等は使わない、抗生物質に頼らないなど、微生物を味方につける生活のヒントも紹介。“清潔すぎて病気になる”という本末転倒は避けたいものだ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    アッと驚く自公「連立解消」…突っぱねた高市自民も離脱する斉藤公明も勝算なしの結末

  2. 2

    クマが各地で大暴れ、旅ロケ番組がてんてこ舞い…「ポツンと一軒家」も現場はピリピリ

  3. 3

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  4. 4

    安倍元首相銃撃裁判 審理前から山上徹也被告の判決日が決まっている理由

  5. 5

    ドジャース大谷翔平が直面する米国人の「差別的敵愾心」…米野球専門誌はMVPに選ばず

  1. 6

    マツコ・デラックスがSMAP木村拓哉と顔を合わせた千葉県立犢橋高校とは? かつて牧場だった場所に…

  2. 7

    自民党は戦々恐々…公明党「連立離脱」なら次の衆院選で93人が落選危機

  3. 8

    今オフ日本史上最多5人がメジャー挑戦!阪神才木は“藤川監督が後押し”、西武Wエースにヤクルト村上、巨人岡本まで

  4. 9

    万博協会も大阪府も元請けも「詐欺師」…パビリオン工事費未払い被害者が実名告発

  5. 10

    ドジャース佐々木朗希の抑え起用に太鼓判も…上原浩治氏と橋本清氏が口を揃える「不安要素」