スマホ化とロボット化で日本の自動車産業が危機に

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 井上久男著「自動車会社が消える日」(文藝春秋 830円+税)では、日本の産業界の頂点に君臨する自動車産業が、決算書からは見えてこない危機的状況に陥っていると警告している。

 世界の自動車産業では今、100年に一度の大きなパラダイムシフトが起こっている。ひと言でいえば、「クルマのスマホ化とロボット化」だ。クルマが外部のネットワークと常時つながり、ソフトウエアも無線を通じて常時書き換えが可能。人工知能(AI)との融合により自動運転技術も進化し、無人による完全自動運転も、そう遠い未来のことではない。

 このようなクルマの内部構造の変化で、設計や製造工程にも大きな変化が起きている。そのためのノウハウを提供し優秀なエンジニアを教育するための機関として注目を集めているのが、シリコンバレーに拠点を置くオンライン教育のベンチャー企業「ユダシティ」だ。

 創始者はグーグルで自動運転分野の担当役員を務めた人物で、世界中の優秀なエンジニアがおよそ400万人登録しているという。

 ユダシティのカリキュラムを作成しているのは独ダイムラーや画像処理の半導体に強い米エヌビディア。中国の配車アプリ大手ディディチューシンも加わっているという。他にも、米グーグルや世界最大の部品メーカー独ボッシュ、韓国のサムスンなどがユダシティの運営に協力し、「パートナー」と呼ばれている。

 実はこのパートナーに、日本企業は一社も入っていない。ある企業がパートナーに加わろうと打診したところ、「日本企業はクライアント」と一蹴されたという噂もある。ユダシティは今後、世界中の企業に修了生を送り込み、ユダシティの概念や手法をクルマの標準規格にしていく可能性がある。こうなれば、蚊帳の外の日本企業はライセンス料を払って技術を提供してもらう、いわば“カモ”になってしまう恐れもある。

 本書では、パラダイムシフトに対応するための日本の自動車産業各社の取り組みも紹介しているが、これまでの常識を破壊して新しいルールをつくろうとしているユダシティとパートナー各国に、対抗できるかは不明である。世界の変化に敏感にならなければ、日本という国自体が地盤沈下しかねない。

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