「スープ屋しずくの謎解き朝ごはん」友井羊著

公開日: 更新日:

 スープというと、前菜とメインのあいだをつなぐ添え物といったイメージだが、その昔、黒くて堅いパンをおいしく食べようと工夫したところからスープは生まれたのだという。つまり立派な料理である。本書のシェフの言葉を借りれば、「栄養を効率よく摂取出来る調理法」であり、「素材や火加減などレシピの違いで無限に味が変化」する優れもの。そんなスープの魅力がたっぷり詰まった料理ミステリー。

【あらすじ】アラサーの理恵は地域の情報を提供するフリーペーパーの編集者。ある朝、いつもと違う道を通っていると、理恵の鼻孔に芳ばしい香りが飛び込んできた。匂いに釣られ「スープ屋しずく」というその店に入ってみる。

 ランチとディナーがメインの営業時間だが、朝6時半から2時間ほど、メニュー1種で店を開けているという。その日のメニューはジャガイモとクレソンのポタージュ。とろみの中にクレソンの鮮烈な香りが立ち、食欲のなかった理恵の胃に優しく収まった。以来、通い始め、シェフの麻野とも親しくなる。

 ある日、理恵の大事にしていたポーチが会社でなくなったのだが、翌朝行くと机の上に置かれていた。同時に、今まで慕ってくれていた後輩が急によそよそしくなった。何があったのかわからず悩み麻野に打ち明けると、見事にその謎を解き、その他、事あるごとに名探偵ぶりを見せる。しかし、最大の謎は麻野だ。妻を病気で亡くし、小学生の娘と2人で暮らしているというが、その深い洞察力はどこから生まれたのか?

【読みどころ】全6話で、最後の第6話で、その麻野の謎が明かされる。滋味あふれる極上のスープのようなヒューマンドラマの味わいも楽しめる逸品。

(宝島社650円+税)

<石>



【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    佐々木麟太郎をドラフト指名する日本プロ球団の勝算…メジャーの評価は“激辛”、セDH制採用も後押し

  2. 2

    日本ハム新庄監督がドラフト会議出席に気乗りしないワケ…ソフトB小久保監督は欠席表明

  3. 3

    ヤクルト青木“GM”が主導したバランスドラフトの成否…今後はチーム編成を完全掌握へ

  4. 4

    吉村代表こそ「ホント適当なんだな」…衆院議席3分の1が比例復活の維新がゾンビ議員削減と訴える大ボケ

  5. 5

    吉村代表は連日“ドヤ顔”、党内にも高揚感漂うが…維新幹部から早くも「連立離脱論」噴出のワケ

  1. 6

    「えげつないことも平気で…」“悪の帝国”ドジャースの驚愕すべき強さの秘密

  2. 7

    ブルージェイズ知将が温めるワールドシリーズ「大谷封じ」の秘策…ドジャース連覇は一筋縄ではいかず

  3. 8

    高市政権は「安倍イタコ政権」か? 防衛費増額、武器輸出三原則無視、社会保障改悪…アベ政治の悪夢復活

  4. 9

    今秋ドラフトは不作!1位指名の事前公表がわずか3球団どまりのウラ側

  5. 10

    亀梨和也気になる体調不良と酒グセ、田中みな実との結婚…旧ジャニーズ退所後の順風満帆に落とし穴