「タルト・タタンの夢」近藤史恵著

公開日: 更新日:

 3年前に放映されたNHKの朝の連ドラ「まれ」は、世界一のパティシエを目指す女性が主人公だったが、結婚した主人公が失敗して落ち込む息子に、アップルパイの失敗から生まれたリンゴの焼き菓子「タルト・タタン」を作って元気づける場面があった。フランス料理店を舞台にした本書の表題作も、その独特な作り方が、謎を解くヒントになっている。

【あらすじ】下町の片隅にある「ビストロ・パ・マル」は、カウンター7席、テーブル5つというこぢんまりしたフレンチレストラン。スタッフは、店主でシェフの三舟のほか、スー・シェフ、ソムリエ、ホール係の4人という少数精鋭。シェフの三舟は無口で変わり者だが、鋭い洞察力の持ち主。

 ある晩、常連客の西田が来店したがどうも様子がおかしい。いつも残さずきれいに平らげるのに、今日はサラダも含めてほとんど手を付けていない。一昨日、婚約者のお手製のフランス料理を食べたのが、つい食べ過ぎて腹を壊したのだという。西田が、オーブンではキャラメル色のタルト・タタンが焼けていたと話すのを聞いた三舟は、けげんに思う。なぜなら、焼き上がったタルト・タタンはタルト生地が上で、キャラメル色が見えないはずだ。とすると……。(「タルト・タタンの夢」)

 あるいは、家の料理の献立を聞いただけで夫婦仲の良し悪しを言い当てたり、ヨーロッパ旅行から帰ってきたばかりの妻が家出した謎をチーズとワインの組み合わせから解き明かしたり、三舟シェフの推理は冴えわたる。

【読みどころ】フランス料理というと高級なイメージだが、本書に登場する料理は素朴なものも多く値段もリーズナブル、こんなレストランが近所にあれば……。 <石>

(東京創元社 700円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人・戸郷翔征は「新妻」が不振の原因だった? FA加入の甲斐拓也と“別れて”から2連勝

  2. 2

    萩生田光一氏「石破おろし」がトーンダウン…自民裏金事件めぐり、特捜部が政策秘書を略式起訴へ

  3. 3

    参政党は言行一致の政党だった!「多夫多妻」の提唱通り、党内は不倫やら略奪婚が花盛り

  4. 4

    【夏の甲子園】初戦で「勝つ高校」「負ける高校」完全予想…今夏は好カード目白押しの大混戦

  5. 5

    早場米シーズン到来、例年にない高値…では今年のコメ相場はどうなる?

  1. 6

    落合博満さんと初キャンプでまさかの相部屋、すこぶる憂鬱だった1カ月間の一部始終

  2. 7

    打者にとって藤浪晋太郎ほど嫌な投手はいない。本人はもちろん、ベンチがそう割り切れるか

  3. 8

    伊東市長「続投表明」で大炎上!そして学歴詐称疑惑は「カイロ大卒」の小池都知事にも“飛び火”

  4. 9

    “芸能界のドン”逝去で変わりゆく業界勢力図…取り巻きや御用マスコミが消えた後に現れるモノ

  5. 10

    自民両院議員懇談会で「石破おろし」が不発だったこれだけの理由…目立った空席、“主導側”は発言せず欠席者も