「ミミズクとオリーブ」芦原すなお著

公開日: 更新日:

 食べ物を扱ったミステリーは多い。たとえば、ロアルド・ダールの「おとなしい凶器」や「味」などは、食べ物ミステリーの教科書ともいうべき傑作だが、本書は同じ食べ物が登場するミステリーといっても、いささか変化球の仕立て。

【あらすじ】八王子の郊外に住む「ぼく」は40代半ばの作家。なるべくなら仕事はしたくないのだが、締め切りが迫ってやむなく筆を執るという、なんともいいかげんな性格。そんな彼を支えるのが同じ香川の出身で、高校で漢文を教わった先生のお嬢さんである「奥さん」。料理が得意で、郷里の友人が訪ねてくると、讃岐名物の「醤油豆」、焼いたカマスのすり身と味噌をこね合わせて「さつま」、黒砂糖と醤油で煮つけた豆腐と揚げの煮物、カラ付きの小海老と拍子木に切った大根の煮しめ、新ジャガと小ぶりのメイタガレイの唐揚げ……といった料理が素早く食卓に並ぶ。

 しかし、料理以上に才能を発揮するのが、探偵も顔負けの鋭い推理力だ。高校時代の友人たちもそれを知っていて、料理をごちそうになりがてら、あれこれの相談を持ちかけてくる。なかでも現役の刑事である河田は、自分の手がけている事件のヒントを得るために奥さんに相談にくる。

 彼女は期待に応えて見事解決の糸口を提示するのだが、主婦が本業のため、河田と共に現場へ行ったり、事件の関係者から話を聞くのはもっぱらぼくの役目。ぼくが伝える話から推理を組み立てていく奥さんは、まさに安楽椅子探偵だ。

【読みどころ】いいかげんだがどこか憎めないぼくと、ひょうひょうと才能を発揮する奥さん、そしておいしそうな料理の数々。これらが三位一体となったシリーズは、現在3作が刊行されている。

 <石>

(東京創元社 580円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    マエケンは「田中将大を反面教師に」…巨人とヤクルトを蹴って楽天入りの深層

  3. 3

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  4. 4

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  5. 5

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  1. 6

    陰謀論もここまで? 美智子上皇后様をめぐりXで怪しい主張相次ぐ

  2. 7

    白木彩奈は“あの頃のガッキー”にも通じる輝きを放つ

  3. 8

    渋野日向子の今季米ツアー獲得賞金「約6933万円」の衝撃…23試合でトップ10入りたった1回

  4. 9

    12.2保険証全面切り替えで「いったん10割負担」が激増! 血税溶かすマイナトラブル“無間地獄”の愚

  5. 10

    日本相撲協会・八角理事長に聞く 貴景勝はなぜ横綱になれない? 貴乃花の元弟子だから?