「7袋のポテトチップス」湯澤規子氏

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 漬物、アンパン、冷凍食品、バナナ、チョコレートなど、庶民にとってごく身近な「食」を通して戦後の日本社会が歩んできた歴史をダイナミックにひもとく“胃袋の現代論”だ。
「前作『胃袋の近代』では大阪の飯場のにおい、初めてピザを食べた驚き、路上でご飯を炊く大衆食堂の活気などを書いたんですが、本が出たあと、驚くほどたくさんの年配の方が、機会があるごとに食の思い出を私に語ってくれるようになったんですね。食の歴史の講義なんかでも、若い参加者や学生も同じように話してくれることが多くて。そういう声をもとに、本などの資料も引いて、たくさんの『食物語』を集めて、誰にとっても身近な日常の『食』から見る戦後史を描きたかったんです」
 本書では、帝国ホテル総料理長でNHK「きょうの料理」でも人気を博した村上信夫、ダイエーの創業者・中内功、国の政策に翻弄されながら米を作り続けている山形県の農家など、多種多様な人々の戦前戦後の食のエピソードが紹介される。
「学術的な資料だけでなく漫画や小説にも生き生きとした食文化は、たくさん描かれています。『サザエさん』には戦後の代用食や闇市の話が出てきますし、終戦間際に誕生した『アンパンマン』は、初期には『アンパンを配る空飛ぶおじさん』という設定だったんですよ。戦後の飢餓を経験したやなせさんが、格好悪いけれど、子どもたちの空腹を満たしてくれるヒーローを描きたいと考えたからなんですね。当時、アンパンはごちそうでしたし、とても時代を反映している話なんです」
 他にも本書では、著者自身の祖父母や父母の食にまつわる逸話や3世代の年表を用いた比較も例に、それぞれの「食物語」を知ることが世代間の相互理解につながると示唆する。
「この本でも紹介した『バナナと日本人』という本を軸に、ある大学で講義をした後で、女子学生が走ってきて、『おじいちゃんのことが分かった!』と言われたことがありました。聞けば彼女の祖父が祖母に愛を告白するとき、バナナを一房丸ごとプレゼントしたそうです。以前その話を聞いた彼女は意味が分からなかったけれど、バナナの歴史や当時は大変な高級品だったことを知り、祖父の思いや祖母の感動を理解できたと言ってました」
 やや謎めいたタイトルの意味は、本の最後に明かされる。著者の息子が小学生の頃、息子の友人たちを自宅に招いた際に目撃した、個人主義の現代を象徴するようなある光景からつけられた。
「今の日本は、胃袋を満たすのは自己責任という考えが主流で、孤食も問題になっています。お金さえあればコンビニで何でも買えるし、一人で生きられる、他の世代と交流する必要なんてないと考える人もいるでしょう。でも、前の世代の日常を知ると、いま自分が『普通』だと信じている生き方や考えが実は唯一ではないと相対化できる。『普通から外れちゃいけない』という息苦しさから少し解放されると思います。それに『一人』で食べても、その食文化の歴史や食品の背景を想像できれば、『孤独』ではなくなると思うんです。ご家庭の食卓にこの本を一冊置いてもらって、みんなで話すきっかけになればうれしいですね」
(晶文社 2000円+税)

▽ゆざわ・のりこ 1974年大阪府生まれ。筑波大学第一学群人文学類卒。筑波大学大学院歴史・人類学研究科単位取得退学。博士。現在、法政大学人間環境学部教授。専攻は歴史地理学、農村社会学、地域経済学。著書に「胃袋の近代 食と人びとの日常史」など。

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