「『承認欲求』の呪縛」太田肇氏

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 SNSで「いいね!」をもらうことに必死になったり、不適切動画をネットにアップして書類送検されてしまう――。こうした、世間の注目を浴びたい「承認」を求める人々の行動が問題になっている。

「目立ちたがり、かまってちゃんなど、今やネガティブな意味合いで語られる承認欲求ですが、本来は人間の正常な欲求のひとつ。尊厳・自尊の欲求とも呼ばれ、モチベーションや自己肯定感をもたらすなど、むしろ良い面のほうが多いんですよ。ただ承認欲求は非常に強力なので、副作用も強い。これまで指摘されてきた『褒められると調子に乗る』などといったものとは別の、異質で重大な問題が潜んでいることが分かったんです」

 本書は、誰もが持つ承認欲求の本質を探りながら、その陰の部分にスポットを当てた話題の書。20年前から承認欲求に注目してきた著者が、官僚や有名スポーツ選手などを分析しながら、隠れた承認欲求がいかに重大な問題を引き起こすかをひもといていく。

「陰の部分とは認められることにとらわれることで、私は承認欲求の“呪縛”と呼んでいます。たとえば、ウケ狙いで話を盛ることも確かに承認欲求のなせる業ですが、意識してやっているので危険性は低い。一番の問題は、無意識に期待に応えなければと思い込むことで、メンタルの不調はもちろん、ひいては国の組織や社会に重大な影響をもたらしてしまうんです」

 承認欲求が認められると「異性にモテる」「昇格する」など有形無形の“俗っぽい”さまざまな報酬が得られる。それだけに、承認欲求は強い力で人を動かすわけだが、その後は獲得した報酬や人間関係にとらわれるようになり、しかもそこから容易に逃れられないというから恐ろしい。

「エリートなど、これまで周囲の期待に応え続けられてきた人ほど危険です。そういう人は、上司に期待されていると察知すると応えようとしますし、たとえ期待と自分の能力にギャップがあっても、『できません』と言うのはプライドが許さない。言ってしまえば、自己肯定感が下がりますからね。結果、自分を追い込んで過労や、うつにつながることが多いんです。実は不祥事が起こるメカニズムも同じ。他に、根が真面目でサービス精神のある人も危ないですね」

 たとえば、元ボクサーの亀田大毅や元プロ野球の清原和博は、もともとは繊細な人物。それが実像とは異なるキャラを求められ、応えていくうちに道を踏み外していった面が見受けられるという。期待に応えようとする真っすぐな性格が災いした可能性が高いのだ。

 自分はエリートでないから安心と思ってはいけない。厄介なことに、エリートでなくても、または承認など興味がないと思っている人も陥る。なぜなら、承認は使命感、責任感、やりがいなどの言葉に置き換えられるからだ。

「働き方改革が進まないと悩む経営者は多いですが、仕事の分担や評価の基準を明確化していないのに、社員は早く帰れるわけがありません(笑い)。このように、承認欲求は日本の社会や組織の特殊性と密接に結びついているんですね。世の中のグローバル化に日本が後れを取っている原因でもあると思います」

 誰の心の奥底にもある承認欲求の呪縛から逃れるには、どうすればいいのか。

「本当は認められたいと思っていることを直視することですね。人間には限界があることを認識して、自分が受け止めている期待をコントロールしていってほしい。本当に自信がある人は断れるものですよ」

 不幸への転落を防ぐためにも、サラリーマン必読の一冊だ。

 (新潮社 780円+税)

▽おおた・はじめ 1954年、兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授。経済学博士。専門は個人を尊重する組織の研究。「個人尊重の組織論」「がんばると迷惑な人」など著作多数。講演やメディアでも活躍。

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