「『定年後』はお寺が居場所」星野哲氏

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 最近、お寺に行ったことはあるだろうか。墓参りや葬式で行ったという人はいるかもしれないが、お寺の利用をそれだけにとどめるのはもったいない。お寺は家でも職場でもない「居場所」を提供する場として、地域コミュニティーの中で重要な役割を果たす可能性を秘めているのだ。

「日本には現在7万を超すお寺があり、コンビニよりも多い数です。そして今、子育てサポートから看取りまで、さまざまな活動を通じて社会に開こうとしているお寺が増えています。実は身近な存在であるお寺を、知らないというだけで遠い存在としてしまうことは、社会的な損失でもあります」

 本書では、終活に関する取材を続けてきた著者が、社会的リソースとしてのお寺の役割を解説しながら、ユニークなお寺の活動について紹介している。

 たとえば“寺コン(寺社婚活)”。始めたのは静岡県浜松市の龍雲寺(臨済宗妙心寺派)による「吉縁会」。お寺で座禅や数珠作りなどの仏教体験をしながら男女交流の場を設ける会で、現在では東京や名古屋をはじめ1000を超えるお寺に広がっている。

 中高年の生きがいを支える活動をしているお寺もある。石川県金沢市の乗圓寺(真宗大谷派)では、県から職業訓練の委託を受け、求職中の50歳以上を対象にパソコン教室を開講。再就職の際にハードルとなるIT技術などをサポートするほか、求人の多い福祉・介護分野にも対応するため、介護業務の基礎知識や技能を学べる場も提供している。

「お寺は昔から子どもたちの見守りの役割を果たしたり、お年寄りの愚痴を聞いたり、民生委員として活動するなど、人々に寄り添う活動を行ってきました。しかし、それが当たり前すぎて積極的に発信を行ってこなかったため、そんな事実を知らない人も増えている。一方で、現代は過疎化や少子化、高齢化などで、社会的に孤立する人が増えています。今こそお寺の存在価値に気づくときです」

 東京都台東区にある長壽院(浄土宗)が中心となって活動している「茶房えにし」では、寺を舞台に毎月さまざまなイベントを開催。ヨガやカフェ、そば打ち、お坊さんと一緒にエンディングノートを書くなど、バラエティーに富んでいる。

「都市生活者が良好な人間関係を構築するための場として、家でも職場でもない第3の居場所“サードプレース”の存在が注目されています。お寺こそが、都市生活者の格好のサードプレースになり得るのではないでしょうか」

 中高年男性にとって、定年後のサードプレース探しは大きな課題だ。社交的な妻のように、お茶会や習い事などに積極的に出かけて新しい人間関係を構築することはできるだろうか。そんなときこそ、お寺を活用してみたい。

 お寺をNPO活動の拠点にするという使い方もある。ネット検索をすると、法話からマルシェ、ライブなど、イベントの情報を発信しているお寺が見つかる。

「カルト教団などはネットによる情報発信にたけているところも多いため注意が必要ですが、本書で紹介している伝統仏教教団のお寺でもネットでの情報発信が進んでいます」

 お寺の取り組みと市民のニーズを結ぶマッチングサイトも登場。お寺の山門前に立つ掲示板も侮りがたい広報ツールで、住職の言葉なども載っているため、ピンときたら山門をくぐってみて欲しい。

「人口減少に伴い檀家制度が終焉を迎えつつある中、社会的リソースとしてお寺の活用が活発になれば、救われる人が増え、お寺も助かる。本書がお寺と社会の“橋渡し”の役割を果たせればうれしいですね」

(集英社 780円+税)

▽ほしの・さとし 1962年、東京都出身。立教大学社会デザイン研究所研究員、一般社団法人介護デザインラボ理事。元朝日新聞記者。人生のエンディング段階を社会でどう支えるかを取材するなかで寺院の役割にも着目。著書に「終活難民-あなたは誰に送ってもらえますか」「遺贈寄付 最期のお金の活かし方」など。

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