「世界のかわいい家」パイ インターナショナル編

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 今ではごくまれになってしまったが、かつては地方に行くと観光地でもないのに藁ぶき屋根の家に遭遇することがよくあった。それがまだ現役で使われている場合は、往々にして周囲の景色と相まって、一幅の絵画のような心地よい風景をつくり出していた。そうした風景からは、住人の丁寧な暮らしぶりまでが伝わってきた。

 同じように海外でも古都や田舎には伝統様式で建てられた家が残っている。本書は、そんな各国で見つけた「かわいい家」を集めた写真集。

 表紙の家は、アイルランド南東部、ウオーターフォードにある。香箱を組んだ猫がのっているかのような柔らかなフォルムの藁ぶき屋根の小さな白い家に真っ赤なドア、おそろいの真っ白な塀に赤い門扉のコラボレーションがとってもおしゃれだ。

 そして窓を彩るように這わせた植物の緑と花の赤が、これまたとてもいいアクセントになっている。まるで絵本や童話に出てくる家のようだ。

 同じ藁ぶき屋根の家でもイギリス・ハリス島のそれはちょっと趣が異なる(写真①)。家が石積みで、色合いも少々地味なのだ。しかし、よほど風が強い土地なのだろう。軒には屋根が飛ばないよう等間隔で丸い石がぶら下げられており、それが建物に独特のテンポをつくり出している。

 一方、デンマークのフェロー諸島の家々の屋根には、一面に芝が生えている。入り江の絶景を独り占めするように立つある一軒家は、黒い板壁に白い窓枠、周囲の草原とつながっているかのような屋根の芝の緑に赤い縁取りが施されており、そのモダンな色使いがなぜか美しい景色を際立たせている。

 ポルトガルのコスタ・ノバの街並みは縦長だったり、平屋だったり、さまざまなタイプの家が並んでいるのだが、そのどれもが申し合わせたようにパステルカラーのストライプで統一されている(写真②)。

 どの家も外見だけでその内部は紹介されておらず、ほとんどの写真には住人ら、人間の姿も写っていない。

 撮影地が記されているだけで、詳しい情報は何もないが、それゆえにこうした家々でどんな人たちが、どのような暮らしを送っているのか、想像を巡らせるだけで、さまざまな物語が浮かんできそうだ。

 他にも、山肌に赤い小さな家が密集する中国・四川省のモザイク画のような風景をはじめ、カンボジアやタイの水上住宅、チュニジアやシリアなどの泥壁の家(写真③)、イタリア・アルベロベッロのタジン鍋を乗せたようなとんがり屋根の家、ロシアのトムスクやスーズダリの窓枠がレース模様のように繊細に飾り付けられた家など、お国柄、土地柄がうかがえる40カ国以上の家々を収録。

 可愛らしく、そして個性的な家々は、眺めているだけで、なんだかこちらの心まで軽く、楽しい気分にさせてくれる。

(パイ インターナショナル 1850円+税)

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