「百花」川村元気著

公開日: 更新日:

 大晦日に葛西泉が実家に帰ってみると、母がいなかった。キッチンには汚れた食器が積み重なっている。泉は近くの公園のブランコに母の百合子が腰掛けているのを見つけた。「帰らなきゃ」と百合子はつぶやいた。一緒に駅前のスーパーに行って、泉は母が計算ができなくなったことを知った。

 泉は生まれたときから父の顔も名前も知らなかった。母と2人で暮らしていたが、泉が中学2年生になる4月の朝、百合子はいつものように朝食を作り、ちょっと出かけてくるねと言って姿を消した。時折、そのときの味噌汁の匂いがよみがえると、泉は吐き気を覚えた。百合子は年下の男のもとに走って、1年帰らなかったのだ。

 認知症ですべてを忘れていく母と、封印した過去と向かい合う息子の物語。

(文藝春秋 1500円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人がソフトB自由契約・有原航平に「3年20億円規模」の破格条件を準備 満を持しての交渉乗り出しへ

  2. 2

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  3. 3

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  4. 4

    日吉マムシダニに轟いた錦織圭への歓声とタメ息…日本テニス協会はこれを新たな出発点にしてほしい

  5. 5

    巨人正捕手は岸田を筆頭に、甲斐と山瀬が争う構図…ほぼ“出番消失”小林誠司&大城卓三の末路

  1. 6

    「おこめ券」でJAはボロ儲け? 国民から「いらない!」とブーイングでも鈴木農相が執着するワケ

  2. 7

    SBI新生銀が「貯金量107兆円」のJAグループマネーにリーチ…農林中金と資本提携し再上場へ

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    「ばけばけ」苦戦は佐藤浩市の息子で3世俳優・寛一郎のパンチ力不足が一因