「配達あかずきん」大崎梢著

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 本屋に入ると、入り口の近くに新刊書や話題の本が並ぶ「平台」と呼ばれる台がある。通は平台を見ただけで、その本屋の個性と担当者のセンスを見切るといわれている。書店員にとって腕の見せどころで、「タイトルと作者名、入り数を考慮しながら、売れ筋は取りやすい場所に積み上げて、それとなく男性向け、女性向け、小説、蘊蓄本とエリアを分けていく」といったことを考えながら並べていく。

 本書は、そうした書店の日常の仕事ぶりを描きつつ、店に舞い込んでくる事件を解決するというユニークな書店ミステリー。

【あらすじ】杏子は短大時代のバイトも含めて本に囲まれる仕事に携わって6年になる24歳。彼女が勤める成風堂は女性向けブティックが主体の駅ビルの6階にある。

 客の曖昧な情報から欲しい本を言い当てるのが得意で、その様子を見ていた客から本を探してくれと頼まれる。本好きで少しボケの症状が出てきた近所の老人から本を買ってきてくれるように頼まれたのだが、そのメモには「あのじゅうさんにーち いいよんさんわん ああさぶろうに」というまるで暗号のような文字が書かれ、版元は「パンダ」だという。さすがの杏子もこれには頭をひねる。

 そこでアルバイトの女子大生、多絵に相談すると、多絵はこの難問を見事に解いてみせる。以後、杏子と多絵のコンビはコミックの「あさきゆめみし」を購入後に失踪した女性の行方や、配達したばかりの雑誌に挟まれていた盗撮写真の謎などを次々に解決していく。

【読みどころ】持ち込まれる謎はすべて本にまつわるもので、本好きは思わずうなるに違いないが、なにより書店の仕事の描き方が見事で書店の舞台裏がよくわかる。 <石>

(東京創元社620円+税)

【連載】文庫で読む傑作お仕事小説

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