「カラー 世界 パンデミックの記録」マリエル・ウード編、青柳正規監修、前島美知子訳

公開日: 更新日:

 新型コロナウイルスの流行が始まって約2年半が経過し、その間に世界で5.4億人以上が感染、犠牲者は630万人を数え、その数はいまだに増え続けている。一方で、まだ警戒が必要だとはいうものの、ワクチンの普及やウイルスの弱毒化などで多くの国では共生へと動き始め、以前の生活に戻ろうとしている。

 本書は、この未知のウイルスが広まり始めた2020年の冬から約1年余の世界とコロナとの戦いを記録した写真集。

 ページを開くと、まず目に飛び込んでくるのは、ウイルスの拡大源と推測された中国・武漢の卸売市場だ。店々のシャッターは下ろされ、立ち入りが禁止された市場の地面が消毒液で濡れ、鈍く輝いている。

 エピデミック(地域的流行)に陥った武漢は、2020年1月下旬にロックダウンされる。その1週間後、人の気配が消えた街の歩道で倒れた男性の写真がある。通行中に突然倒れたようだ。通りかかった自転車の男性は見て見ぬふりをして通り過ぎ、駆けつけた防護服姿の当局者も男性に触れることなく右往左往している。

 写真からは、男性の生死はわからない。男性はその後、警察によってその場から運び出されたという。

 同じころ、日本では大勢のマスコミが待ち構える横浜港にダイヤモンド・プリンセス号が着岸。その約1カ月後に撮影された東京の朝のラッシュアワーの風景では、ほとんどの人がマスクを着けている。

 韓国・ソウルでは、防護服を着た兵士が一列になって繁華街を徹底的に消毒。ヨーロッパで最初のエピデミックに陥ったイタリア・クレモナの病院の写真からは、終わりのない戦いに従事する医療関係者の疲弊と苦悩が伝わってくる。

 疫病の流行は経済をもむしばんでいく。

 ニューヨークの株式市場で途方に暮れた表情を浮かべる男性の後ろに設置されたモニターが指数の急落を映し出している。

 他にも、南アフリカのヨハネスブルクのスーパーマーケットに並ぶ群衆にゴム弾の銃を向けソーシャルディスタンスを守るよう警告する警察官や、感染を恐れ地下5メートルまで穴を掘って死者を埋葬するイラク・ナジャの墓掘り人など。時系列に並べられた世界各国の写真を見ているうちに、当時、日に日に被害が深刻さを増す中で感じた不安や恐怖が蘇ってくる。

 一方で、カメラはパンデミックの嵐の中でも続く人々の営みも切り取る。

 ベトナム・ハノイでは生まれたばかりの新生児にもフェースマスクが着けられ、ベルギーのグラースオローニュの高齢者施設の面会用に作られたコンテナの中でアクリル板越しに手を重ねる年老いた母親と息子など、フランスの通信社が61カ国の国と地域、165の都市・街・村で撮影された約500点を収録。

 どんな結末が待っているのかはまだだれにも分からないが、現代人のほとんどだれもが経験したことがないパンデミックの始まりからワクチン登場までを記録した貴重な写真集。さらなる悲劇的な経過を伝える続編が作られないことを祈るばかりだ。

 (西村書店 3850円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2026夏の甲子園「優勝校はココだ!」 本紙と専門家が徹底予想、“対抗”含む5校を紹介

  2. 2

    横浜流星「BL作品興味なし」発言に滲むプロ意識 「べらぼう」後初の民放連ドラ主演で注目

  3. 3

    “DAIGOの妻”となった北川景子が「家売るオンナ」で本格復帰

  4. 4

    広島新井監督はクビ濃厚…火中の栗を拾う次期監督「本命」「対抗」「大穴」4人の名前

  5. 5

    やはり浮上した高市首相「9月退陣」シナリオ…支持率急落も反転攻勢のネタなく、不安材料ばかり目白押し

  1. 6

    小園はセーフ? 広島「矢野だけ抹消」にファン激怒! “ゾンビたばこ”騒動で不可解な線引き

  2. 7

    『バック・イン・ザ・U.S.S.R.』旧ソ連や黒人解放がインスピレーションを与えた時代

  3. 8

    佐々木朗希は今季先発見納めへ…スネル&グラスノー復帰でリリーフ転向が濃厚か

  4. 9

    永田町がザワつく自民党役員人事…裏金議員“筆頭格”の萩生田光一氏「幹事長昇格説」浮上の仰天

  5. 10

    橋本愛の“熊本お見舞いメッセージ”まで批判する声に違和感…思い出される杉良太郎「偽善でもいい」の信念