「幻想店舗録」幽玄一人旅団、清水大輔著

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 街を歩いていると外観からして何やらただものではないオーラを放出している店が1軒や2軒必ずある。訳ありの人物たちが集まりそうな飲み屋であったり、その世界の人たちが喜々として集う趣味の店のようだったり、気になりつつもその扉を開く勇気が出ない。

 あなたの街にもきっとあるそんな独自の世界観を放つ「異世界に一番近いお店」をテーマにした写真集。

 冒頭に登場するのは、森の中のカフェのようだ。回廊風に店を囲むテラスを突き抜けるように樹木がそそり立ち、建物の庇と森から侵食した植物が一体化、まるで森の胎内にいるかのようだ。夜は、そんなテラス席の客を見つめるかのように、外壁から突き出したシカの頭部の剥製がライトアップされ、無造作に置かれたドライフラワーや古道具たちがこの空間だけ時間が止まっているかのように感じさせる。訪れた客は、誰からも忘れられた秘密の場所に紛れ込んだような錯覚を覚えるかもしれない。

 夜間に撮影されたこうした外観とは一変、自然光のもとで撮影された店の内部は、一角にはおいしそうなパンや果実などが並べられ、人のぬくもりが蘇ってくる。

 続くアンティークショップでは、古書の詰まった本棚や外国の城で使われていたかのような椅子の間を埋めるように、あちらこちらに無造作に配されたドライフラワーの花束を、天井から吊り下げられたいくつもの豪華なシャンデリアの優しい光が照らす。

 店の一角は、まるでアンティーク家具を覆い隠すようなドライフラワーに覆われているのだが、驚いてはいけない。

 さらに次のページに登場する古都のカフェは、店全体がドライフラワーの海と化し、四方八方から襲いかかってくるドライフラワーに溺れそうだ。

 かと思えば、西洋の甲冑や骸骨のオブジェ、女の子の人形の頭部などおびただしい数のオブジェやランプ、古道具が混然一体となった喫茶店や、天井を埋め尽くすように古色蒼然とした大きな鍵が吊り下げられ、店内のあちらこちらには怪しい薬のような小瓶が詰まった大きなガラスの容器、そして店の奥には天使なのか悪魔なのかわからぬ小さなフィギュアが小山のように折り重なって置かれたバーなどもある。

 それぞれの店を象徴するドライフラワーや動物の剥製、ドクロ、そしてさまざまな古道具など、どれも一度命を失ったモノたちが、新たな居場所を見つけ、新たな時を刻み始めているかのようだ。

 他にも、不気味な紳士が運転手を務める2階建てバスを利用したレストランや、配管と計器類がアートのように壁を飾るセレクトショップ、きらびやかなトルコランプが天井を埋め尽くす中東料理レストラン、まるで沈没した潜水艦の中に紛れ込んだかのように鈍く輝くメタリックな空間のバーなど、全国各地の街で今もあなたの来店を待っている26店舗を収録。

 扉(ページ)を開けば、そこには幻想世界が広がっている。

(パイ インターナショナル 2035円)

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