「老害の人」内館牧子著

公開日: 更新日:

 緊急事態宣言中の2020年に元気に85歳を迎えた戸山福太郎は、すごろくやカルタの製作販売会社「雀躍堂」の元社長。10年前に引退して娘婿の純市にその座を譲ったものの、その際1室だけ会社内に部屋を用意してほしいと新社長に頼み込み、形だけといいながら「経営戦略室長」の肩書までつけてもらった。

 その後5年間は会社に顔を出すことはなかったものの、ある日突然出社を開始し、誰彼かまわずかつての成功体験話を繰り返すようになってしまった。今さら老人にむち打つことは言いたくないと、周囲が見て見ぬふりをし続けるうち、社員のみならず取引先にまで被害者が続出。ついに娘の明代が、福太郎に苦言を呈すのだが……。

 高齢者の生態を描いた「終わった人」「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」に続く、高齢者小説第4弾。昔話、説教、病気自慢、趣味自慢、クレーマーなど、元気な高齢者が陥りがちな老害の数々をコミカルに描いた高齢者群像劇だ。福太郎の元に集まるパワフルすぎる高齢者の無自覚な言動に悩まされる、家族や周囲の人の心情がシビアなリアルさで伝わってくる。 (講談社 1760円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    横浜とのFA交渉で引っ掛かった森祇晶監督の冷淡 落合博満さんは非通知着信で「探り」を入れてきた

  2. 2

    複雑なコードとリズムを世に広めた編曲 松任谷正隆の偉業

  3. 3

    中学受験で慶応普通部に進んだ石坂浩二も圧倒された「幼稚舎」組の生意気さ 大学時代に石井ふく子の目にとまる

  4. 4

    ドジャース内野手ベッツのWBC不参加は大谷翔平、佐々木朗希、山本由伸のレギュラーシーズンに追い風

  5. 5

    「年賀状じまい」宣言は失礼になる? SNS《正月早々、気分が悪い》の心理と伝え方の正解

  1. 6

    国宝級イケメンの松村北斗は転校した堀越高校から亜細亜大に進学 仕事と学業の両立をしっかり

  2. 7

    放送100年特集ドラマ「火星の女王」(NHK)はNetflixの向こうを貼るとんでもないSFドラマ

  3. 8

    維新のちょろまかし「国保逃れ」疑惑が早くも炎上急拡大! 地方議会でも糾弾や追及の動き

  4. 9

    出家否定も 新木優子「幸福の科学」カミングアウトの波紋

  5. 10

    【京都府立鴨沂高校】という沢田研二の出身校の歩き方