「薔薇色に染まる頃」吉永南央著

公開日: 更新日:

 北関東の紅雲町でコーヒー豆と和食器の店「小蔵屋」を営む杉浦草は、ある日、東京のアンティークショップ「海図」のオーナー金源から電話を受ける。それは数十年前、事情があって草が手放した帯留めが戻ってきたという知らせだった。

 翌日、海図を訪れた草は、近所のバーの雇われ店長・ユージンが行方不明で、恐らく殺されただろうと聞かされる。

 店を出た草は、人目を忍んでバーに向かう。実は海図に通いだした数年前からユージンとは顔見知りで、「俺が死んだら運んでほしいものがある」と頼まれていたのだ。草はメモの指示に従い、バーに隠された2つの札束を新宿区の怪しげな質屋に運ぶ。これで終わった、と安堵したのも束の間、京都へ向かう新幹線で突然、何者かに追われている若い母親から小さな男の子を託され……。

萩を揺らす雨」「月夜の羊」など累計75万部突破のシリーズ第10弾で、本作では和服姿のお草さんと無口な男の子の逃避行を描く。大金、傷害事件、ネグレクトなど社会の日陰をなぞりつつ、お草のピンチを、遠く離れた紅雲町の仲間たちが助けていく。草の運んだ現金にからむ命の行く末が明らかになるラストが圧巻だ。

(文藝春秋 1760円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾

  2. 2

    農水省ゴリ押し「おこめ券」は完全失速…鈴木農相も「食料品全般に使える」とコメ高騰対策から逸脱の本末転倒

  3. 3

    TBS「ザ・ロイヤルファミリー」はロケ地巡礼も大盛り上がり

  4. 4

    維新の政権しがみつき戦略は破綻確実…定数削減を「改革のセンターピン」とイキった吉村代表ダサすぎる発言後退

  5. 5

    3度目の日本記録更新 マラソン大迫傑は目的と手段が明確で“分かりやすい”から面白い

  1. 6

    国分太一“追放”騒動…日テレが一転して平謝りのウラを読む

  2. 7

    粗品「THE W」での“爆弾発言”が物議…「1秒も面白くなかった」「レベルの低い大会だった」「間違ったお笑い」

  3. 8

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  4. 9

    「おまえになんか、値がつかないよ」編成本部長の捨て台詞でFA宣言を決意した

  5. 10

    巨人阿部監督の“育成放棄宣言”に選手とファン絶望…ベテラン偏重、補強優先はもうウンザリ