「新宿ナイトガール」柊一華著

公開日: 更新日:

 SM女王にしてSMクラブ経営者、そして写真家と、さまざまな顔を持つ著者が、自らも拠点とする新宿で出会い、友人となった女性たちを撮った写真集。

 緊縛ショーのモデルやAV監督をはじめ、同業者でもある女王様やバーレスクダンサー、写真の表現者にバー経営者、そしてゴールデン街スタッフなど、モデルとなったのは、新宿という舞台でさまざまな思いを抱きながらみな「美しく生きている」女性たちだ。

 彼女たちは、「水面下で足をもがきながら、笑顔で困難を乗り越えていく人」たちだと著者はいう。

 撮影場所は新宿にあるどこか昭和のテイストが漂うラブホテル。数え切れぬほどのカップルたちが愛を交わしたベッドで、彼女たちも肌をあらわにしてレンズに向かってほほ笑みかけたり、潤んだ瞳で見つめたりと、さまざまな表情を見せる。それは著者とモデルとのひとときの交歓でもある。

 かつて2人の幼子を抱え、元夫の借金を返すために昼夜の区別なく働き、精神的に追い詰められる中、自殺した蝶マニアだった父親の遺品の一眼レフを手にしたことが、写真を始めるきっかけだったという著者。

 人生の辛酸をなめながら、女王様という場所を見つけ、今は光り輝く著者に、モデルたちは全幅の信頼をおいて裸身をさらす。それは自らの人生が肯定されていることを、言葉を交わさずとも知っているからだろう。

 駆け出しの女王だったころ、ボンデージをまとい、かっこつけて縛って鞭を振るだけでマゾたちが言うことを聞くわけではないことを知り、SMは人間同士のぶつかり合いであることを思い知ったという。そして、尊敬するオーナーの女王様からは自分自身と向き合うことを教えてもらった。

 性がカップルの愛の儀式であるならば、SMもまた愛のコミュニケーションのひとつなのだ。

 緊縛された女性たちのショットも収められる。

 ほかにも、入れ墨で白い裸身を埋め尽くした女性や、マゾ男性を責め立てている女王様の写真もある。

 シースルーの下着やボンデージ、さらに裸身に毛皮をまとった女性たちは、男性読者の視線などを意識していないかのように自然に振る舞い、普段、男たちには決して見せない表情を見せる。

 男性読者は、その表情に男性カメラマンが撮る写真とは別の妖しさを感じることだろう。

 著者は、女性が一瞬だけのぞかせる神々しさや美しさ、かわいらしさを撮りたいという。その撮影は、女性同士だからこそ分かり合える秘密の行為なのかもしれない。

 巻末にモデルを務めた彼女たちのニックネームが小さく記されているだけで、どの女性がどの写真の人かも分からず、彼女たちの情報は一切分からない。

 だが、作品を見つめ、そのあらわな肉体と向き合い、そしてその瞳を見つめているうちに、彼女たちが生きてきた人生が浮かび上がってくるようだ。

(東京キララ社 2200円)

【連載】GRAPHIC

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    映画「国宝」ブームに水を差す歌舞伎界の醜聞…人間国宝の孫が“極秘妻”に凄絶DV

  2. 2

    「時代と寝た男」加納典明(22)撮影した女性500人のうち450人と関係を持ったのは本当ですか?「それは…」

  3. 3

    輸入米3万トン前倒し入札にコメ農家から悲鳴…新米の時期とモロかぶり米価下落の恐れ

  4. 4

    くら寿司への迷惑行為 16歳少年の“悪ふざけ”が招くとてつもない代償

  5. 5

    “やらかし俳優”吉沢亮にはやはりプロの底力あり 映画「国宝」の演技一発で挽回

  1. 6

    参院選で公明党候補“全員落選”危機の衝撃!「公明新聞」異例すぎる選挙分析の読み解き方

  2. 7

    「愛子天皇待望論」を引き出す内親王のカリスマ性…皇室史に詳しい宗教学者・島田裕巳氏が分析

  3. 8

    TOKIO解散劇のウラでリーダー城島茂の「キナ臭い話」に再注目も真相は闇の中へ…

  4. 9

    松岡&城島の謝罪で乗り切り? 国分太一コンプラ違反「説明責任」放棄と「核心に触れない」メディアを識者バッサリ

  5. 10

    慶大医学部を辞退して東大理Ⅰに進んだ菊川怜の受け身な半生…高校は国内最難関の桜蔭卒